真咲輝司 Rehabiri knock

大学病院で勤務する理学療法士

変形性膝関節症による疼痛の軽減方法を考えよう。

変形性膝関節症(OA)は、日本人の有病率が高い疾患として有名で、

National Livelihood の調査では、日本の40歳以上でOAを患っている人は約2300万人と言われています。

 

さらに、OAは日常生活にも影響しており、

介助が必要な疾患ランキングで、OAは4位にランクインしており、

介助量の負担を減らす観点からも、今後解決していかなければならない問題の1つとなっています。

 

その介助の負担を増大させる要因一つとしてLinakerらは、疼痛が影響していると述べています。

つまり、OAによる疼痛を軽減することができれば介助量の軽減にも繋がるということが示唆されました。

これまで、OAによって生じる疼痛はレントゲン所見の重症度(Kellgren-Lawrence分類)と相関があるとされてきました。

 

一方でMurakiらは、このような報告を行いました。

 

「必ずしもOAによる疼痛の増悪とレントゲン所見の重症度には相関がない」

 

確かに、臨床をする中でOAがKellgren-Lawrence分類のグレードが3,4にも関わらず疼痛の症状が全くない方もいれば、その逆の場合も多い印象を受けます。

 

では、一体OAによる疼痛は何に影響しているのでしょうか。考察をしていきましょう。

 

大腿四頭筋の筋力がOAの痛みに影響している

 

 

Murakiらは、Kellgren-Lawrence分類の重症度以外に関連する因子として 、【大腿四頭筋の筋力】が関係しているのではないかと推測しました。

 

これまでは大腿四頭筋の筋力を測定するにはCybex, Biodex そしてKIN-COMといった機械を用いて使用していました。しかし、これらの機械は等速性筋収縮により詳細に量的な筋力を測定できるという有用性の一方で非常に高価な機械のため、設置している施設が少なく、被験者数を集めにくいなどの欠点もありました。

 

しかし、最近ではQuadriceps Training Machine(QTM)という機械が開発され簡便に大腿四頭筋の筋力を測定できるようになりました。

 

Murakiらは、このQTMという機械を使ってOAの患者様と大腿四頭筋の筋力を比較することとしました。

 

測定方法は2011−2013年のうちに3つの施設から集められた3040人(男性1061人、女性1979人)を対象とし、評価項目は身体計測項目{身長、体重、BMI}と、左右握力、QTMを使った左右の大腿四頭筋筋力、WBI(大腿四頭筋の筋力から体重を除した割合)、下肢筋の体積、を計測しました。

 

 

その結果、KL分類の重症度と疼痛の相関にはこのような違いが見られました。

 

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 このようにKL分類の重症度と疼痛の有無の相関を見ると、KL分類のⅢ・Ⅳは疼痛の有無と有意な相関がありましたが、Ⅰ・Ⅱは有意な相関が見られませんでした。

つまり、OA重症化すればするほど疼痛が増悪するわけではないということになります。

 

 

では一体、疼痛は何に相関するのでしょうか??

 

今回の研究の中で疼痛の有無によって有意に違いが認められた項目は、年齢・BMI・握力・大腿四頭筋の筋力・WBIでした。一方で、下肢筋の筋体積は有意な違いが認められませんでした。

 

Murakiらは大腿四頭筋と疼痛の有病率を比較すると、下肢筋力が10kgf未満の群と、10−20kgfの群は、40kgf以上の群と比較して有意に有病率が高いことを見つけました。

 

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この結果は、体重比でも同様の結果となりました。

 

さらに、有意な違いが認められた項目の中で、最も独立して疼痛に影響している項目が

大腿四頭筋であることも述べておりました。

 この結果から疼痛が発生する大腿四頭筋のカットオフ値をROC曲線を使って求めたところ男性が27.5kgf(感度0.58,特異度0.64)で、女性が27.0kgf(感度0.72,特異度0.48)となりました。

 

では、なぜ、大腿四頭筋の強さが疼痛に関与するのでしょうか?

 

この問いに、Murakiらは、

大腿四頭筋は膝関節の安定性に寄与する働きがある。そのため、大腿四頭筋が弱化すると膝関節の不安定性が増し、疼痛が増悪すると説明しています。

 

 

中には、40kgf以上の筋力を有しているにも関わらず、疼痛を感じている方もいますが、これらの理由としては、滑膜炎やアライメント不良、半月板変性など他の要因も関与しているようです。

 

このような結果からも日頃からウォーキングや膝のばしといったトレーニングを継続して行うことは、大切なことであることがわかりました。

参考文献

 

 

  1. Sharma L, Kapoor D. Epidemiology of osteoarthritis. In: Moskowitz RW, Altman RD, Hochberg MC, Buckwalter JA, Goldberg VM, editors. Osteoarthritis: diagnosis and medical/surgical management. 4. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins; 2007. pp. 3–26.
  2. Guccione AA, Felson DT, Anderson JJ, Anthony JM, Zhang Y, Wilson PW, et al. The effects of specific medical conditions on the functional limitations of elders in the Framingham Study. Am J Public Health. 1994;84:351–8. doi: 10.2105/AJPH.84.3.351.[PMC free article] [PubMed] [Cross Ref]
  3. Felson DT, Zhang Y. An update on the epidemiology of knee and hip osteoarthritis with a view to prevention. Arthritis Rheum. 1998;41:1343–55. doi: 10.1002/1529-0131(199808)41:8<1343::AID-ART3>3.0.CO;2-9. [PubMed] [Cross Ref]
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  5. Muraki S, Oka H, Akune T, Mabuchi A,et al .Quadriceps muscle strength, radiographic knee osteoarthritis and knee pain: the road study. BMC Musculoskelet Disord. 2015; 16: 305.