酸塩基平衡の問題をいち早く察知! 〜血液ガスに見方〜
アニオンギャップ(AG)というものをご存知でしょうか?
アニオンギャップ = [Na+] -([Cl-]+[HCO3-])
で表すことで、主に代謝性アシドーシスを見出す簡便な計算式ですね。
しかし、この式だけでは、代謝性アシドーシスによる代償をしっかりと行えているのか、わかりません。
つまり、AGだけをやっただけで終わってしまうのは患者さんのデータを全然読めていないということです。
しかし、医療現場となれば、たくさんの患者様がいて、1人の患者様の血液データにゆっくり時間を割けない!ということが医療従事者にとっての実情ではないかと思います。
また、血液データの中にHCO3-を測定しない場合もあると思います。そうなるとAGすら読めなくなります。そんな方々に、少しでも迅速にそして正確に血液データを読む方法をお伝えします。
STEP1 血清NaからCLを引く!
正常値であればNa 140mEq/L CL 104mEq/Lです。計算すると、Na-CLは36です。
なぜ最初にこの計算をするかというと,この計算をするだけで簡便にあることがわかるのです。
30以下→代謝性アシドーシス疑い(あるいは呼吸性アルカローシス)
40以上→代謝性アルカローシス疑い(あるいは呼吸性アシドーシス)
31~39→不確定
これまでCLの値を見ていない方が多いのではないのでしょうか?
CLの値にも注目することでいち早く異常に気づくことができます。
STEP 2 血清K(カリウム)値とpHの関係が適切か確認!
実は、血清KとpHは逆の関係をとります。
pHが7.4の時、血清Kは4mEq/Lです。まずこれを基準にしてください。
pHが0.1上がると血清はK0.5下がります。
つまり、pH7.2のアシデミアになると血清Kは5mEq/Lになるということです。
では、なぜ血清KとpHが逆の関係になるのでしょうか?
例えば、何らかの影響で大量の血清Kが失われ、低K血しょうになったとします。
通常、細胞の中には、たくさんのKを含んでいるため、低K血しょうになると細胞内のKは細胞外へ移行します。すると電気的中性を維持するために、H+を細胞外から細胞内へ移行する働きが起こります。
H+は酸性ですから、血液内の酸が減ってしまうのです。
STEP3 pH7.〇〇 の値とPCO2値を確認!
代謝性アシドーシスやアルカローシスの場合、どのような代償が働くでしょうか?
HCO3 16mEq/L pH7.22のような代謝性アシドーシスの場合、呼吸を促進し体内のPCO2を排出しようとします。その結果,PCO2も正常値40mmHgから22mmHg程度まで低下していきます。
仮に代謝性アシドーシスになっても、PCO2が40mmHgになっている場合、一見正常値のように見えて、その裏に呼吸機能障害を疑うことができるのです。つまり、呼吸性の代償がしっかりと働いているのかをすぐにわかるということです。
STEP4 AaDO2を求めよう!
AaDO2は肺胞酸素分圧(PAO2)− 動脈酸素分圧(PaO2)です。
肺胞酸素分圧(PAO2)の求め方は
=0.21×(760-47)-PCO2×呼吸商(0.8)
=150-50
=100mmHg
動脈酸素分圧は正常値だと90~100mmHgなので,
AaDO2は,0~10mmHgくらいになります。
AaDO2値が高くなるほど、肺胞中の酸素と血液中の酸素に差が生じているということです。Ⅰ型呼吸不全の場合は、肺胞の酸素が動脈血にうまく行き渡らない病態ですから、AaDO2は増加します。Ⅱ型の場合は、動脈血だけでなく肺胞にも酸素が行き渡っていない病態ですから、見かけ上、AaDO2は正常値に近い値となるので、合わせて覚えてください。
ちなみに酸素投与中の肺胞酸素分圧(PAO2)を求める方法は、
FiO2(吸入気酸素濃度)×713- PCO2×呼吸商(0.8)です。
患者様のデータをいち早く分析できることは、リスク管理能力を身につけることと同じです。今日では、医者だけでなく、看護師、薬剤師、PT、OT、STも血液データを見てリスク管理できる力が必要です。 次回も、引き続き血液データの見方について考えていきましょう。
Reference
1)Fagan TJ:Estimation of hydrogen ion concertration. N Engl J Med,288:915,1973
2)今井裕一:”Na-CL”からわかることはなんですか?『輸液ができる好きになる』,羊土社,2010