真咲輝司 Rehabiri knock

大学病院で勤務する理学療法士

エネルギー欠損が筋肥大の効果を高める

1日に必要とされるエネルギー量を食事で摂らないと除脂肪体重は20-30%減少するが、脂肪は減少しない。

これは2010年に発表されたシステマティックレビューです。

 

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除脂肪体重:

主に身体の中の脂肪組織以外のことを示し、筋肉や骨などの総称を言います。

 

 

1日に摂取したエネルギー量が必要なエネルギー量を下回っている状態のことをエネルギー欠損と言います。

(例えば、1日に必要なエネルギー量が1600kcalとした時、1400kcalしか摂取しないことを200kcalのエネルギー欠損と言います。)

 

上記のシステマティックレビュー以降、エネルギー欠損は除脂肪体重を低下させ、脂肪組織を上昇させることから、ダイエットにおいて、良くないものと見なされてきました。

 

なぜなら、同じ量の脂肪と筋肉を比較した時、筋肉の多い方が基礎代謝を高めるとされ、ダイエットの効果を示すと言われているからです。

 

この話題はテレビでも取り上げられ、単なる食事制限だけでは、脂肪ばかりの体をつくってしまい、痩せにくい身体を作り上げてしまうのです。

 

たとえ痩せられてとしても、すぐにリバウンドしてしまうわけはここにあったのですね。

つまりダイエットをするためには少なくとも筋力を増やすことが欠かせないのです。

そんな中、これまでの通説をひっくり返すような報告がありました。

 

 Aretaらは、エネルギー欠損の状態で筋力トレーニングを実施した後にプロテインを摂取するとタンパク合成能(MPS)が上昇し、筋力が増強しやすくなる。

また、Heydariによると、さらにより高い負荷をかけたトレーニングを実施することで、エネルギー欠損の状態でも,除脂肪体重を上昇させることが可能になったとも報告されました。

 

 

そんな中Thomasらは、こんな疑問を抱きました。

「エネルギー欠損の状況で、プロテインをより多く摂取する方が、可及的に筋力を増強できるのではないか?」

 

 

 

目的

エネルギー欠損の状態で運動後のタンパク摂取量が除脂肪体重にどう影響を及ぼすかについて研究を実施しました。

 

・研究デザイン:前向き研究*

*(被験者を特定してから、その被験者に現れることを調べていく研究の方法)

・対象:肥満(BMI<25)の若年男性40人

・介入期間:4週間

 

 

・対象となる40人にエネルギー欠損(40%)の状態で、低タンパク群には、体重1kgあたり1.2gを摂取し、

高タンパク群には体重1kgあたり2.4gを摂取することとしました。

両群には1週間に6回レジスタンストレーニングを実施しました。

 

レジスタンストレーニングの内容は、

①1RMの80%の負荷量で  1セット10回×3セットのサーキット

②スプリントトレーニング30秒走を4-8セット

③最大酸素摂取量の90%で1分間のペダリング

を実施しました。

 

結果

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 LBM:除脂肪体重

 

除脂肪体重は高タンパクの摂取によって増える

除脂肪体重において、高タンパク群は(1.2 ± 1.0 kg)、低タンパク群は(0.1 ± 1.0 kg)に比べて有意に高タンパク群の除脂肪体重が増加しました(P>0.05)

 

しかし、この結果は、先行研究とは対称的なものでした。

Pasiakosらの研究では、本研究と同様にエネルギー欠損中の除脂肪体重の変化を報告しております。

対象者に30%のエネルギー欠損中に2.4g/kgのプロテインを摂取しました。有酸素運動(40-60% VO2MAX)でのランニングやサイクリングなどの有酸素運動を実施しました。その結果、本研究とタンパク質の摂取量に変わりないにも関わらず、除脂肪体重が、

1.2 ± 0.3 kg下がる結果となりました。

 

 

なぜ、タンパク質の摂取量に変わりないにも関わらず、除脂肪体重に変化を生じたのでしょうか?

 

その大きな違いが、運動メニューにあるといいます。

除脂肪体重の増加に至った本研究では、主にレジスタンストレーニングと呼ばれる高負荷でのメニューが中心であったのに対し、除脂肪体重の低下に至ったPasiakosの研究では、有酸素運動を中心としたメニューだったのです。

 

Trappらによると、レジスタンストレーニングによって筋肉内のミトコンドリア活性化に寄与すると報告されています。

 

レジスタンストレーニングによって除脂肪体重に変化を及ぼしたと考えられます。

 

脂肪組織は高タンパクの摂取で減る 

また、今回の研究では、脂肪体積にある変化を及ぼしました。

脂肪体積の結果は、高タンパク群(−4.8 ± 1.6 kg)、低タンパク群(−3.5 ± 1.4kg)と有意に高タンパク群で低下しました。(P>0.05)

 

レジスタンストレーニングの開始から20分を経過すると脂肪分解を促進するホルモンの分泌量が増加すると報告しています。

 

また、脂肪体積を減らすための1つの方法として、プロテインの摂取が良いと言われています。

今回、高タンパク群と低タンパク群によってプロテインの摂取に違いを生じたことが要因と考えられました。

 

 アトウォーターの係数とは?

ここで1つの疑問が挙げられました。

プロテインをたくさん摂った分だけ、脂肪体積も減らせて筋肉も増えていいのでは??

 

結論から言うと、それは大きな間違いです。

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食事から摂取した糖・脂質・タンパク質はお互いに変換することができます。

糖・脂質・タンパク質の中で最もエネルギー量が多いのは、脂質です。

栄養素1gあたり発生するエネルギー量の値をアトウォーターの係数といい、糖質4.1kcal、脂質9.3kcal、タンパク質4.2kcalと言われています。

 

人間の身体は効率的にエネルギーを長期保存できるように糖やタンパク質を脂質、つまり脂肪組織に変換しておこうとする働きを持っています。

 

つまり、プロテインを摂取することでそのままタンパク質として体内に吸収されていても、摂りすぎると脂肪組織として吸収されてしまうのです。

 

つまり、筋肉の増強にはプロテインの摂取量とレジスタンストレーニングの相互の関係を考えることが重要なのです。

 

 

まとめ

少なくとも本研究で実施したレジスタンストレーニングメニューであれば、
1.2g/kgよりも2.4g/kgのプロテインの摂取の方が4週間という短い期間で筋肉の増強と脂肪体積の減少を可能にするということが明らかとなりました。

 

 

ぜひ筋肥大を目的とする人もダイエットを目的とする人にも知って頂きたいことですね。

 

 

終わりに

今回の研究の対象は20代の肥満男性です。誰もが今回の介入で行なったプロテインの摂取量が適切というわけではありません。特に未成年者や高齢者においては、プロテインを摂取することで起こるリスクについて考えなければなりません。

今後は、プロテインによるリスクなどについても述べていきたいと思います。

 

 

 

 

 

参考文献

  1. Weinheimer EM, Sands LP, Campbell WW. A systematic review of the separate and combined effects of energy restriction and exercise on fat-free mass in middle-aged and older adults: implications for sarcopenic obesity. Nutr Rev2010;68:375–88.
  2. Cermak NM, Res PT, de Groot LC, Saris WH, van Loon LJ. Protein supplementation augments the adaptive response of skeletal muscle to resistance-type exercise training: a meta-analysis. Am J Clin Nutr2012;96:1454–64.

 

  1. Areta JL, Burke LM, Camera DM, West DW, Crawshay S, Moore DR, Stellingwerff T, Phillips SM, Hawley JA, Coffey VG. Reduced resting skeletal muscle protein synthesis is rescued by resistance exercise and protein ingestion following short-term energy deficit. Am J Physiol Endocrinol Metab2014;306:E989–97.

 

  1. Heydari M, Freund J, Boutcher SH. The effect of high-intensity intermittent exercise on body composition of overweight young males. J Obes2012;2012:480467.

 

  1. Pasiakos SM, Cao JJ, Margolis LM, Sauter ER, Whigham LD, McClung JP, Rood JC, Carbone JW, Combs GF Jr, Young AJ. Effects of high-protein diets on fat-free mass and muscle protein synthesis following weight loss: a randomized controlled trial.

 

  1. Trapp EG, Chisholm DJ, Freund J, Boutcher SH. The effects of high-intensity intermittent exercise training on fat loss and fasting insulin levels of young women. Int J Obes (Lond)2008;32:684–91.