わかりやすい酸素摂取量のド基礎②
酸素摂取量は酸素をどれだけ血液の中に取り込めるかを示した量です。
つまり酸素摂取量が多い人ほど体力があるということです。
また、酸素摂取量の増加は、心疾患患者の生命予後を上げると報告されています。
酸素摂取量はFickの方程式というもので表せます。
酸素摂取量は1回心拍出量・心拍数・動静脈酸素格差の積で規定されます。
つまりこのどれかが長けていれば、酸素摂取量が高くなるということを意味します。
前回は、1回心拍出量について考察していきました。
今回は第二弾、酸素摂取量における心拍数について考えていきましょう!
心拍数は速いほど良いの?
計算上の話ですが、心拍数を極限まで上げることができれば、酸素摂取量をさらに上げることができると思いませんか?そうだとすると、酸素摂取量はかなり高いところまで上げることができます。
しかし、人間の身体はそんなに簡単な仕組みではないのです。健常者であれば、心拍数がたくさん上がっても、1回心拍出量はそこまで低下することはないのですが、心不全患者の場合は違います。
心不全患者の場合、心拍数が上昇すると1回心拍出量が低下し、結果的に酸素摂取量は低下してしまうのです。
1回心拍出量が低下する地点は無酸素性代謝閾値(AT)と近似していると言われています。
運動療法を実施することで酸素摂取量の増加を認められていますが、その要因は1回拍出量の増加と動静脈酸素格差の拡大によるもので、心拍数が増加しやすくなるという報告は、ほとんど上がっておりません。
それどころか、心不全患者の場合はまた、その他にも1回拍出量をさげてしまう場合があります。
心拍数は上がりすぎても下がりすぎても、酸素摂取量が下がってしまう非常にデリケートなものなのです。
簡単に例をあげたので確認していきましょう。
心拍数が上がりすぎて酸素摂取量が下がるタイプ
不整脈
頻脈性心房細動
左心室に血液が溜まっていない状態で何度も心臓が収縮すると、空打ちしてしまうため1回心拍出量は低下します。
その上頻脈性心房細動は冠血流量が40%低下すると言われています。冠血流量が低下すると、心臓の栄養供給が低下します。その結果、心臓の収縮力が低下するため1回心拍出量も低下するのです。
さらに頻脈性心房細動と左室駆出率(L V E F)が組み合わさると1回心拍出量は30%ほど低下すると報告されています。
上室性頻拍
先ほどの頻脈性心房細動と比較すると、上室性頻拍の1回心拍出量は低下しにくいものですが、それでも冠血流量は35%低下すると言われています。
心拍数が下がりすぎて酸素摂取量が下がるタイプ
洞不全症候群
洞結節の線維化等によって安静時・運動時ともに心拍数が上昇しにくくなる症候群です。
その結果、運動しても酸素摂取量を上げられなくなり、日常生活程度の活動で呼吸困難を呈してしまうのです。
βブロッカー
現在使用される主なβブロッカーはカルベジロール(α,β blocker)とビソプロロール(β1 blocker)のを使用すると、心拍数を下げる効果があります。Nemotoらの報告では、ビソプロロール(β1 blocker)を使用した方がカルベジロール(α,β blocker)よりも心拍数を下げやすいとの報告も上がっています。
その他の薬剤
抗コリン薬のアトロピンや、ジルチアゼムと言った徐脈作用の強い薬剤も心拍数を下げる効果があります。しかし、実際に投与されるのは、心拍数が上がりすぎて酸素摂取量が下がるタイプの不整脈などを抑える目的に使われます。
このように心大血管疾患の患者さんは心拍数をコントロールする薬が入っていることが多いです。ただ体力がないんだなと思わずに、その体力が減っている原因が何なのかを考えることが非常に重要です。
今回は、酸素摂取量における心拍数について簡単に紹介しました。
次回は動静脈酸素格差について考えていきましょう。
Reference
1 Nemoto.S : Effects of αβ-Blocker Versus β1-Blocker Treatment on Heart Rate Response During Incremental Cardiopulmonary Exercise in Japanese Male Patients with Subacute Myocardial Infarction.Int J Environ Res Public Health.2019