真咲輝司 Rehabiri knock

大学病院で勤務する理学療法士

HFrEFとHFpEFで最大酸素摂取量の改善の仕方が違う? 最大酸素摂取量が向上するメカニズムとは?

世界では2000万人以上が心不全と診断されており、昨今の高齢化に伴い心不全患者は増加の一途をたどっております。

そして心不全による死亡率は高く、世界で早急に対策を立てていかなければならない課題と言えます。

 

心不全は大きく2種類に分けることができ、心不全患者のおよそ50%は左室駆出率が減少したHFrEFという状態。残りの50%は、左室駆出率の低下しないHFpEFという状態と言われています。

 

HFrEFは収縮不全を生じている状態です。

 

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左室の心筋の収縮が弱く、(あるいは弁による弊害)大動脈に血液を送ることができない状態です。

 

HFpEFは拡張不全を生じている状態です。

 

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左室駆出率は健常人と同等なので、大動脈に血液を送る力は強いにも関わらず、左心室に血液が入ってこないがために、結果的に大動脈に血液が送りにくくなっている状態です。

 

慢性的な心不全は運動耐用能の低下を認め、酸素摂取量も減少していると報告されています。

特に、心不全患者は健常者と比較してpeakVO2は35%低下するとの報告も上がっております。

 

実際に心不全患者さんに機械を用いて血管内のモニタリングを行うと、中枢(酸素運搬能力)から末梢(骨格筋血流速度、ミトコンドリア機能)らの減少が明らかとなりました。

 

つまり、酸素摂取量が低下した患者さんは、日常生活を送るだけでも最大努力を必要とし、結果的に不活動、あるいは廃用症候群に至ってしまうケースが多いのです。

 

 ここでWesley らはある疑問を呈しました。

「同じ心不全と言っても、HFrEFと、HFpEFでは心機能が違う。なのになぜ、どちらも運動を行うと酸素摂取量が向上するのだろうか?」

 

この問いに答えるため、Wedleyらはメタアナリシスを作成し、rEF,pEFの違いによってこれらの酸素摂取量の改善の仕方に違いがあるか明らかにしようと試みたのです。

 

HFrEFの心機能の変化

HFrEFはかつて大きな論争がくり広がっていました。

運動療法で左室の機能が向上する!と報告するものから、左室機能は変わらないと報告するものまで様々でした。

 

そんな論争は、Haykowskyらの、メタアナリシスによって1つの答えを導いたのです。

有酸素運動を行った群で左室駆出率(LVEF)が2.6%増加し、拡張期左室容積(EDV), 11.5mlが減少、収縮期左室容積(ESV)が12.9ml減少するという左室機能が向上することを、

Haykowskyらが明らかにしたのです。

 

このことから、臨床的に安定したHFrEFにおける有酸素運動は心臓のリモデリングを行い、拡大した心臓を細くすることができることが示されたのです。

 

 また、HFrEFに対する高負荷インターバルトレーニングの報告も見られました。

高負荷インターバルトレーニングを4-6ヶ月実施したことでpeak VO2が23%改善し、

動静脈酸素格差、下肢血流速度、1回心拍出量も実施前に比べて有意に改善を認めました。

しかし、有酸素運動では減少を認めた拡張期左室容積(EDV)や、収縮期左室容積(ESV)には改善を認めませんでした。

 

HFpEFの心機能の変化

HFpEFについても、ある論争が起こっておりました。

fuzimotoらは、pEFにおいて1年間の高強度のインターバルトレーニングを行った結果、左室コンプライアンスの改善は認めないと報告しています。

 

一方で、

Haykowskyらは、HFpEFの患者の16週間の運動療法フォローを行った結果、動静脈酸素格差と最大酸素摂取量は改善するものの、心機能は改善しないことを明らかにしたのです。

 

また同様にHFpEF に12週間の高負荷インターバルトレーニングをおこなった研究でも同様の結果となりました。

 

HFrEFの血管機能

HFrEFに対して有酸素運動最大酸素摂取量の60-70%の負荷量での運動療法を行ったで結果,心大血管機能の改善を認めたとの報告が上がっています。

血管機能の中でも特に変化を示したのが、アセチルコリン(ACh)です。

 

Linkeらの研究では短期間(4W~)の有酸素運動だけでアセチルコリンが2.5倍増加したことを報告しており、十分に橈骨動脈の血管拡張能力が改善したことを明らかにしました。

 

同様にBelardinelli らも、長期間(2〜6ヶ月)で有酸素運動をした結果、上腕・橈骨動脈の血管拡張反応120%改善したとの報告も明らかとなっています。

 

 高負荷インターバールトレーニングvs有酸素運動 血管機能の変化

両様式でも最大酸素摂取量と血管拡張機能の改善を認めたが、高負荷インターバールトレーニングの方が、血管拡張機能の改善の程度は大きかったと報告されています。

 

これらのことから、血管拡張機能が最大酸素摂取量の改善と関連があることが示唆されました。

しかし、なぜ血管拡張機能が向上すれば、最大酸素摂取量の向上に寄与するのでしょうか?

  

この疑問にいくつかの考察があげられました。

Sullivanらは、血管機能の改善によって骨格筋の収縮時に酸素を速やかに運搬できるようになった結果、ミトコンドリア内に酸素を多く取り込めるようになったことで最大酸素摂取量が増加したのではないかと思われました。

 

さらにHambrechtらは長期の介入研究にて、4-6ヶ月の介入で、骨格筋の血管抵抗性が低下し、骨格筋血流量,酸素運搬能力、最大酸素摂取量、動静脈酸素格差が増加したことを報告しています。

また、赤血球に結びついた酸素が筋肉内のミトコンドリアに輸送される能力についても実施前よりも39%改善することが報告されている。

 

これらのことから、血管機能が改善することは、あらゆる面で良い効果を及ぼすことが示唆されました。

HFpEFの血管機能

まだHFpEFの血管機能を報告した論文数は少なく、不明な点は多いです。

しかし、Angadiらの報告だと、4週間の高負荷インターバルトレーニングを実施しても、HFpEF患者は血管拡張機能が改善しないことを報告しており、未だ、pEFの血管機能についての研究が今後の課題と言えます。

HFrEFの骨格筋機能

6ヶ月にわたって、HFrEFに対して有酸素運動を実施することで、骨格筋内のミトコンドリアの増加、シトクロムCの密度の増加が認められた。

シトクロムCの増加は最大酸素摂取量の増加と強い関連があるとされます。(r=0.87 p<0.001)

 

さらに筋肉の線維が(typeⅡからⅠへ移行)、そして筋線維の毛細血管密度も増加すると言われている。またtyniらの別の研究では、運動療法によって、クエン酸回路での代謝が45→58%まで増加することが明らかとなったのです。

 

HFpEFの骨格筋機能 

これまでHFpEFに対して、骨格筋機能についての報告は少ないです。

しかし中には、動静脈酸素格差の増大(筋肉でたくさん酸素を取り込める)や外側広筋の酸素取り込み量が増加するとの報告が挙げられています。最近では12週間の高負荷インターバルトレーニングもpeak VO2 を改善したとの報告が上がっています。

 

筆者の見解ですが、HFpEFに対して有酸素運動・高負荷インターバルトレーニングを行っても心機能が改善することは明らかになっておりません。にも関わらず、最大酸素摂取量が増加するということは、動静脈酸素格差の増大が、大きな割合を占めているのかもしれません。

 

まとめ

有酸素運動時のHFrEFとHFpEFの反応

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高負荷インターバルトレーニング時のHFrEFとHFpEFの反応
 

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