手術侵襲度と術前フレイルが術後死亡率に及ぼす影響
はじめに
手術による侵襲度が高いと術後の合併症を伴う可能性は上がり、有病率・死亡率共に増加すると言われております。
また手術を受ける患者自身の身体機能もまた、有病率・死亡率に影響するとこれまでの先行研究にて報告されてきました。
特にフレイルを有する場合は比較的軽い処置でも機能予後や生命予後にも悪影響を及ぼすことが報告されております。
そこで今回は手術侵襲度と術前フレイルが術後死亡率に及ぼす影響について最新の知見を紹介します。
フレイルの定義
加齢の伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態
フレイルを診断する評価バッテリーは多くありますが、中でも身体機能の低下を評価したものだとRisk Analysis Index(RAI)というバッテリーが世界共通と言われております。
フレイルとは適切な介入により再び健康な状態に戻る可塑的な状態とも言われておりますが、手術侵襲のストレスによる身体機能の低下を加速させて、身体機能の非代償化、あるいは死亡するリスクすらあるのです。
フレイル患者と手術
現在のところフレイルと術後合併症との影響については先行研究が少なく、小規模のデータしかないのが現状です。
これまでの外科医たちは、フレイルの患者が侵襲度の低い手術に耐えるだけの予備力があるのかどうかを考慮してこなかったという背景がある。
しかしながらこのような低リスクの手術でさえ、フレイルにとって悪い結果となるのであれば、例え侵襲度の低い手術でさえも実施せずに保存的加療をした方が良いという選択となる場合もある。
その場合に外科医は出来る限りフレイルのリスクを減らせるように術前から患者家族と相談し今後の方針を共有し決定していくことが重要となるのです。
そして手術を行うという決定となれば、できる限り身体機能の改善、予備能力を高められるようにリハビリテーションの追加や栄養療法の介入を行うことで術後の予後が変わる可能性もあります。
そこでMyrickらはフレイルの重症度と手術侵襲度との関係性を明らかにすることしました。
フレイルの重症度と手術侵襲度との関係
Myrickらはまず手術ごとの侵襲度を群分けしOSSという指標を作成しました。
これらの手術が行われた術後から30日、90日、180日の死亡率との関係を明らかにすることとしたのです。
フレイルの重症度を表す指標:Risk Analysis Index(RAI)
手術侵襲度を表す指標:Operative stress score(O S S)
(RAI)
14項目からなり、0から81点のスコア。点数が高いほどフレイルの重症度が高いことを示す。R A Iは術後死亡率を予測するための評価として高い予測力をを備えたツールと言われています。
(O S S)
外科術で得られた結果からカテゴリをO S Sで分けた。
O S S1:非常に低いストレス
O S S2:低いストレス
O S S3:中等度ストレス
O S S4:高いストレス
O S S5:非常に高いストレス
対象は432828人で92.8%が男性(401453),平均年齢は(61.0±12.9)
平均RAIscoreは(21.25)。
R A Iスコアをフレイルの重症度ごとに群分け。
アウトカムは30 90 180日の死亡率。
統計はCOX 比例ハザード比を使用。
結果
Figure 1より
フレイルではないRA I<20の非フレイル患者は手術侵襲度の増加に伴い死亡率は増加する傾向を示しましたが、フレイル患者は全てのタイプを通して死亡率が高いことがわかりました。
例えば、O S S1の比較的軽度の侵襲でも、一般的な死亡率と比較してフレイル(RAI 30-39)では死亡率が1.55倍,重度フレイル(R A I>40)では10.34倍まで増加するのです。
また手術侵襲度の低い(OSS1-3)を受けたフレイル患者の死亡率は、手術侵襲度の高い(OSS5)を受けた 非フレイル患者よりも死亡率を上回りました。
手術侵襲度の低い手術でも死亡率は高い
これまではOSS5に当てはまるような手術侵襲度の高いものであればハイリスクだと認識されてきましたがフレイルと呼ばれる方にとってはOSS1となる手術侵襲度の低いものもハイリスクだという認識も持つことが重要であると考えなければなりません。
実際に多くの患者が、手術を行うか、保存的加療を選択するべきか決められていない患者やそのご家族が多い状況です。なぜなら、生活の質(Q O L)というのは、生きることそのものだからです。
今後、フレイルの患者が手術を行う時はいずれの患者に対しても、議論を重ねる必要があるということです。
リハビリテーションが重要
そこで今後の展望としてリハビリテーションの術前介入が重要になってくるのです。
近年では、フレイル患者に運動療法を行った介入研究も見られております。
フレイルと診断された85歳以上の施設入所者24名に対して運動療法を行うことで身体機能の改善を認めました。今後、フレイル患者が手術を選択することとなった場合は、リハビリテーションを介して、身体機能の改善を図ることができれば術後の有病率や死亡率を減らせるかもしれません。
運動療法、そして栄養介入を実施することで
身体機能を改善することが重要!
REFERENCES
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