真咲輝司 Rehabiri knock

大学病院で勤務する理学療法士

アップテンポの音楽を聴けばランニングタイムが速くなるメカニズム

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音楽を聴きながらランニングすることはよくない。

自分の走るテンポを狂わしてしまうためだ。

実際に自宅の近くの河川敷を歩いてみると、ほとんどの人がイヤホンをつけずに淡々と走っている。

 

そんな中、ウェイン州立大学のJacob らによってこんな報告が上がった。

アップテンポの音楽を聴きながら運動をすることで、疲労感を軽減することが初めて証明された。

 

 

 

今回はアップテンポの音楽が運動中に及ぼす影響について考えていこう。

 

本当にアップテンポの音楽を聴いた方が良いのか

Jacobらは22-31歳の男女を対象に自転車エルゴメーター(自転車のような形をしたトレーニングマシーン)を使い、4Wからスタートし毎分ごとに4Wずつ負荷を増やしていくテストを行った。

およそ、平坦な道を自転車で漕ぐ時に足にかかる負荷がおよそ10W程度と言うとイメージしやすいのではないだろうか。

 

このテスト中にアップテンポの音楽を聴きながら限界まで自転車エルゴメーターを漕いだ時、そして音楽を聴かずに漕いだ時、それぞれの大腿四頭筋にかかる疲労度を筋電図で測定した。

 

筋電図は筋肉の発火頻度、運動単位数を視覚的に評価できると言われており、客観的な評価ができる。

疲労感を評価するために筋電図を用いることは、この研究の優れている点と言える。

 

その結果、アップテンポの音楽を聴きながら行った群の方が、筋出力が大きく上がったのだ。

さらにJacobの報告はそれだけに止まらなかった。

 

疲労感を生じる閾値にも有意な差が生じたのだ。つまり大腿四頭筋が疲れにくいということだ。

 

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筆者にて編集

 

 

とても興味深い研究に思う。アップテンポの音楽を聴きながら運動すればより高い負荷で運動することができるため、効率的で効果が出やすくなるのではないだろうか。

 

しかし、これを読んだ方々はこう思うのではないだろうか。

音楽を聴いたらテンションが上がるんだから、いつもより頑張れるのも当然だ!

 

 

確かにその意見は確かに一理あるように思う。しかし、いつもより頑張っているということは、必ず心拍数が上昇しているはず。

 

今回の研究の参加者では音楽を聴いた群とそうでない群で心拍数はなんと変わらないという結論に達した。心拍数が上がっていないということは、音楽を聴いた群がいつもより頑張っているわけではないのだ。

 

ではなぜアップテンポの音楽を聴くことで、疲労感を感じにくくなるのか。

 

疲労感を軽減するメカニズム

その謎を解く鍵となったのが、脳波の変化だ。

イギリスのブルネル大学のBigliassiらは音楽を聴いている時の脳波の着目した。

 

その結果アップテンポの音楽を聴くと、脳内のθ波が減少することを明らかにしたのだ。

 

θ波とは4-7Hz(1秒間に4-7回振動する)し、主にリラックスした時や深い瞑想をする時にもこのθ波が出現しやすい。

 

よくひらめきが生まれるのは、このθ波の時と言われる。

 

Bigliassiは運動中にアップテンポの音楽を聴くことで、連想的思考ができなくなり、ある意味ゾーンに入るような状態になると結論付けている。

 

さらに音楽を聴きながら運動を行った場合と音楽を聴かない場合と比較して、

運動中の脳の活動を調べた。

 

実際、運動中に音楽を聴いた場合の方が側頭葉や島皮質の活動が増加することが報告されている。

 

これらの結果から脳の疲労に関連した領域に影響を与え、疲労感を感じる閾値が上がったと考えられている。

 

では実際にどんな音楽が良いのだろうか。

 

今回の研究結果では136-160bpmまでの曲が使われているが、高いbpmほど良い結果になるわけではないことがわかった。

 

つまり、アップテンポで自分の好きな曲を聴きながら走ることが最も効果的であると思われる。

 

そんな私も最近好きなDizzel Rascal &Calvin Harrisの「Hype」を聴きながらランニングをしてみようと思う。

 

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Reference

 

Jacob Centala: Listening to Fast-Tempo Music Delays the Onset of Neuromuscular Fatigue.jornal of strength and conditioning research.2019

 

Bigliassi M. Cerebral mechanisms underlying the effects of music during a fatiguing isometric ankle-dorsiflexion task. Psychophysiology 53: 1472–1483, 2016.

カフェインを摂ると足が速くなる?

カフェインの摂取が運動時に有益な効果が現れています。

 

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Clarkeらはカフェイン3mg/kgの量が含まれたがコーヒーと、カフェインが含まれていないコーヒーをそれぞれ摂取させて、違いを比べたところカフェイン入りコーヒーを飲んだ時の方が、1.3-1.9%ほどランニングタイムが速くなったという報告も行いました。

 

他にも、Grahamらは150-300mgのカフェインと摂取しトレッドミルで測定したところ1500mのタイムが1.45%速くなるとの報告も出ています。

  

ではなぜ、カフェインの摂取によってランニングスピードに寄与するのでしょうか。

 

 

カフェインの作用

筋肉を収縮するためには、筋小胞体から出るカルシウムが作用します。しかし、カルシウム濃度が上がると筋肉を過収縮させてしまいます。カフェインには、この過収縮を防ぎ、筋肉をリラクゼーションする働きがあります。(Gold stein 2010)

 

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図 筆者作成

 

 筋小胞体はカルシウムポンプを持ち、能動的にカルシウムイオンを取り込んでいます。

筋細胞に興奮が起こると、筋小胞体はカルシウムイオンを細胞質に放出します。

 

アクチンフィラメントはトロポニンやトロポミオシンという調整蛋白を含んでいます。

 

ミオシンフィラメントは架け橋を構成し、収縮に際してA TPを分解しエネルギーを供給します。

 

カルシウムイオンの濃度が増加し、カルシウムイオンとトロポニンが結合すると、アクチンフィラメントから離れ位置を変えてA TPを分解すると、そこでアクチンフィラメントと結合し、元の位置に戻ります。この運動の繰り返しによって筋肉の収縮は起こります。

 

カルシウムイオンがアクチンフィラメントのトロポニンと結合して、骨格筋の収縮を制御しているので、これをアクチン関連制御と言います。

 

カフェインはこのアクチン関連制御に関与し、筋肉の過収縮を防ぎ、エネルギーを節約する働きがあるのです。

 

 

また、有酸素運動時にアデノシン受容体の拮抗作用が働き、痛みや疲労感を減らす効果があると報告されています。これをエルゴジェニック効果といいます。(Davis 2009)

 

これらのことから、自覚的な疲労感を減らし、ランニングスピードを上げることができると言われています。

 

 

そのため、Collompはカフェインを摂取することで、短距離走のスピードが速くなる可能性を示されているのです。

 

カフェインの量

では具体的にどの程度の量が効果的なのでしょうか。

 

2週間の運動においてFerreiraは(5mg/kg)のカフェインを運動前に摂取した効果を検討しました。その結果、選手たちの筋肉へのダメージが減少することが明らかとなりました。

 

またさらに炭水化物のみの摂取している選手と比較して、炭水化物+カフェインを摂取している選手の方が、エネルギー キャパシティーが増大することを示しました。(Taylor 2011)

 

そんな中、よりカフェインの摂取量を増やした方が、得られる効果も高いのではないかと考えた方々がいました。

 

Pedersenらはこれまでよりも多い8mg/kgのカフェインを運動前に摂取しました。

その結果、新たな効果が明らかとなりました。

 

その研究によるとグリコーゲンの使用を出来る限り最小限に抑えて、さらにミトコンドリア活動も増加することが示されたのです。

 

 

つまり、H I ITのパフォーマンス能力にも影響することが示唆されたのです。

また、近年はカフェインと他の栄養素を組み合わせたマルチサプリメントについても注目を集めています。

 

 

Fukudaらは、カフェインにクレアチンとアミノ酸を組み合わせたことで、ランニングタイムにも効果が現れることを示したのです。

 

しかしまだ、これまでにランニングスピードとカフェインの関係を実際に計測した研究は多くありません。

 

Alexandreらはカフェインの摂取(5mg/kg)の有無で800mのタイムに差が出るか検討しましたが、明らかな差は生じませんでした。

 

もしかすると、カフェインの摂取に加えてアミノ酸などのマルチサプリメントでの介入を行えば、効果が出る可能性があるかもしれませんね。


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  1. Clarke N.D., Richardson D.L., Thie J., Taylor R. Coffee Ingestion Enhances One-Mile Running Race Performance. Int. J. Sports Physiol. Perform. 2017:1–20. doi: 10.1123/ijspp.2017-0456. [PubMed] [CrossRef] [Google Scholar]
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  3. Goldstein E.R., Ziegenfuss T., Kalman D., Kreider R., Campbell B., Wilborn C., Taylor L., Willoughby D., Stout J., Graves B.S., et al. International society of sports nutrition position stand: Caffeine and performance. J. Int. Soc. Sports Nutr. 2010;7:5. doi: 10.1186/1550-2783-7-5. [PMC free article] [PubMed] [CrossRef] [Google Scholar]
  4. Davis J.K., Green J.M. Caffeine and anaerobic performance: Ergogenic value and mechanisms of action. Sports Med. 2009;39:813–832. doi: 10.2165/11317770-000000000-00000.
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  6. Ferreira G.A., Felippe L.C., Bertuzzi R., Bishop D.J., Barreto E., De-Oliveira F.R., Lima-Silva A.E. The Effects of Acute and Chronic Sprint-Interval Training on Cytokine Responses Are Independent of Prior Caffeine Intake. Front. Physiol. 2018;9:671. doi: 10.3389/fphys.2018.00671.
  7. Taylor C., Higham D., Close G.L., Morton J.P. The effect of adding caffeine to postexercise carbohydrate feeding on subsequent high-intensity interval-running capacity compared with carbohydrate alone. Int. J. Sport Nutr. Exerc. Metab. 2011;21:410–416. doi: 10.1123/ijsnem.21.5.410.
  8. Pedersen D.J., Lessard S.J., Coffey V.G., Churchley E.G., Wootton A.M., Ng T., Watt M.J., Hawley J.A. High rates of muscle glycogen resynthesis after exhaustive exercise when carbohydrate is coingested with caffeine. J. Appl. Physiol. (1985) 2008;105:7–13. doi: 10.1152/japplphysiol.01121.2007.

9.Fukuda D.H., Smith A.E., Kendall K.L., Stout J.R. The possible combinatory effects of acute consumption of caffeine, creatine, and amino acids on the improvement of anaerobic running performance in humans. Nutr. Res. 2010;30:607–614. doi: 10.1016/j.nutres.2010.09.004.

マラソンが速くなりたい人は必ずH I I Tを知っておこう

高負荷インターバルトレーニング(High-intensity interval training:通称(HIIT)

 

高負荷のトレーニングと低負荷のトレーニングを交互に組み合わせたトレーニング方法で世界中のトップアスリート達がHIITを活用したトレーニングを実施しています。

 

トップアスリート達がHIITを使うようになった大きな理由は、従来のトレーニング方法と比較してもトレーニング効果が高いことが示されているからです。(BurgomasterK.A 2007)

 

その上、トータルの運動時間は短く効率的とも言われていますから、HIITを知っておくだけで、練習効率はグッとよくなるわけです。

 

具体的にHIITについて見ていきましょう。

 

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H I I Tは空腹の状態で行おう

よく筋トレは空腹で実施をしてはいけないという記載を目にします。

本当にそうでしょうか。

 

実はH I I Tは空腹時に実施した方が良いと言うことが明らかとなりました。(Hansen 2005)

 

どうして、これまで言われていたことと逆の反応になったのでしょうか。

 

実際に空腹時でグリコーゲンが低い状態でH I I Tを行った報告がありますので見ていきましょう。

 

CochranらはH I I Tを実施した時の、骨格筋への反応について食前後で比較しました。

 

実施内容はpeak VO2 の90%以下の高い運動負荷を取り入れたH I I Tを4分×5セットを2週間実施するものです。

 

その結果、食前に実施した群の方が、筋肉内のミトコンドリアを増やすp38 MAPK という活性酵素が増大したのです。

 

同様の結果が、Bartlett らの研究でも明らかとなりました。

 

 

その結果、空腹時にH I I Tを実施することが有益であると結論付けたのです。

 

H I I TはPGC-1αを活性化する

PGC-1αという遺伝子の転写を制御する物質は、ミトコンドリアの合成を促進する働きや、血液中のブドウ糖を骨格筋に輸送する役割のあるGLUT4と言う輸送体が増加することが報告されています。(Miura S 2003)

 

このPGC-1αはHIITを行うことで増加することが示されたのです。

 

そのため、ミトコンドリアの増加によって、体内に取り込むことのできる酸素の量が増え、最大酸素摂取量の増加に寄与することが明らかとなったのです。

 

※ランニングパフォーマンスを上げる上で最大酸素摂取量を上げることが重要と言われています。

 

www.rehabiliknock.com

 

H I I Tの効果を示す報告はそれだけに止まりません。

末梢血管の構造や機能にも良い効果を来たし、血液中の乳酸の増加も抑えることができると言われています。(Macinnis 2017)

その上、クレアチンリン酸の働きをも改善することが示されております.(ForbesS.C 2008)

 

 

しかし、あくまで短期間に行った介入研究なので、少なくとも長期間H I I Tを実施した際の効果検討が必要になると思われます。

 

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1.Burgomaster K.A., Howarth K.R., Phillips S.M., Rakobowchuk M., Macdonald M.J., McGee S.L., Gibala M.J. Similar metabolic adaptations during exercise after low volume sprint interval and traditional endurance training in humans. J. Physiol. 2008;586:151–160. doi: 10.1113/jphysiol.2007.142109.

 2.MacInnis M.J., Gibala M.J. Physiological adaptations to interval training and the role of exercise intensity. J. Physiol. 2017;595:2915–2930. doi: 10.1113/JP273196.

3.Forbes S.C., Slade J.M., Meyer R.A. Short-term high-intensity interval training improves phosphocreatine recovery kinetics following moderate-intensity exercise in humans. Appl. Physiol. Nutr. Metab. 2008

 

ランニングエコノミーを知らないとマラソンタイムは上がらない。

 

どうすればマラソンのタイムが速くなるか?

ランナーが常に向き合う疑問だ。

 

結論から言うと、持久力と筋力を鍛えただけでランニングパフォーマンスはそんなに上がらない。

ランニングパフォーマンスを上げて速いタイムで走るには「ランニング エコノミー」と言う概念を知っておかなければならない。

 

「ランニング エコノミー」は直訳で走りことの経済性を言う。

なんのことかと言うと、いかに無駄なエネルギーを使わずに燃費良く走ることができるか。と言う意味である。

「ランニング エコノミー」は近年注目を集めており、世界中で研究が勧められている。

 

実際に、*Pub Medで検索すると年々「ランニング エコノミー」に関するデータが増えていることがわかる。

*Pub Med 米国国立医学図書館が作成している医学分野の代表的な文献情報データベース

 

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今日はランニングパフォーマンスを上げるために必要な「ランニング エコノミー」について考えてみよう。

 

 

ランニングパフォーマンスを高める

 

 

ランニングパフォーマンスは次の3つで構成される。

・最大酸素摂取量

・乳酸作業閾値

・ランニングエコノミー

 まずはこの3つを知ることがタイムを上げるために重要だ。

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図 筆者作成

 

 

最大酸素摂取量

最大酸素摂取量を医学的に言うと、身体の中にどれだけ酸素を取り込むことができるかを意味する。

 

 酸素は身体の中でエネルギーを作るために必要な材料だ。

 

言い換えれば酸素を多く取り込める人ほどたくさんのエネルギーを作ることができる。

 

普段、我々が椅子に座ってくつろいでいる時に酸素を1分間に3.5ml/kgほど摂取している。

 

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そして運動をすれば、動くために使うエネルギーを作るために換気量を上げて身体に吸い込む酸素を増やしていく。

一般成人の場合は1分間に50ml/kgほどまで酸素を取り込めると言われている。

それが、世界で活躍するトップマラソンランナーともなれば1分間に80-90ml/kgほどの酸素を取り込めるようになるのだから驚きだ。

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  走る速度を徐々に上げて運動負荷を上げていくと、必要なエネルギーを作るために取り込む酸素の量は次第に増えていく。しかし、酸素を身体の中に取り込める量にも人それぞれ限界がある。

 

 図で示したように、運動負荷を上げてもそれ以上酸素摂取量を上げられない地点に達したポイントを最大酸素摂取量と言い、言わば体力の限界地点のようなものだ。

 

 最大酸素摂取量に到達したら次第に走ることができなくなってしまう。  

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よく勘違いされがちだが、ここで言う酸素を摂取する量というのは、深呼吸して肺の中いっぱいに空気を入れることではない。

 

肺に入れた酸素が筋肉の細胞に取り込まれることを酸素摂取量という。

まちがっても、深呼吸しながら走ればタイムが速くなるとは思わないようにして頂きたい。

 

実は酸素摂取量は次の式で求めることができる。

酸素摂取量1回心拍出量×心拍数×動静脈酸素格差

 

ここでいう動静脈酸素格差というのはかなり深い話になってしまうので別の機会にしようと思う。

 

 

乳酸作業閾値

 Welt man らの研究で最大酸素摂取量を上げるだけでなく、乳酸作業閾値の値もランニングパフォーマンスに大きく関わることが明らかとなった。

 

 全力で50mを走り終わった後に足にくる重だるい感じをよく乳酸が溜まると表現するが、そのイメージで十分だ。

 

 マラソンを走るときもだんだんと、足に乳酸が溜まってくるだろう。これがランナーにとっては大敵なのだ。ニューヨーク市立大学のWelt manの報告によるとこの乳酸をいかに溜めずに走ることがマラソンタイムを上げることに直結すると報告している。

 

 この乳酸が溜まってくる地点を嫌気性作業閾値という。

 

一般成人は最大酸素摂取量の50%くらいの地点に嫌気性作業閾値があると言われているが、世界のトップランナーは最大酸素摂取量の80%くらいの地点に嫌気性作業閾値があるというのだから衝撃だ。

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この最大酸素摂取量乳酸作業閾値に加えて重要なのが

ランニングエコノミーという概念である。

 

 

 

ランニングエコノミー 

 

最初の項でランニングエコノミーはいかに無駄なエネルギーを使わずに燃費良く走ることができるか。と言う意味だと話した。

 

そもそもどうやってこの曖昧なランニングエコノミーという概念を確かなものにしていくか。

 

実はランニングエコノミーも評価をして客観的な値として調べることができる。

 

ランニングマシーンを使用し、10km/hのスピードで10分間走ったとしよう。

同じ速度で走ったとしても、人それぞれ消費するエネルギーは違うのだ。

 

酸素摂取量の話を読んでくれた方はもう気づいた方もいるかもしれない。

 

つまり、同じ速度で走っても酸素消費量が全く違うのだ。

 

カルフォルニア州立大学のDanielsらやAranpatzisの報告でもランニングエコノミーが向上するとマラソンタイムが速くなる可能性があると報告している。

 

ランニングエコノミーの概念は車に例えるとわかりやすい。

無駄なガソリンを消費せずにどれだけ長く走れるかということが重要なのだ。

 

つまり、マラソン界ではフェラーリのようなスポーツカーよりも、プリウスのようなエコカーの方が強いということだ。

 

 

 実際にフルマラソンのタイムは

最大酸素摂取量とタイムの相関だけをみたものよりも、ランニングエコノミー+最大酸素摂取量とタイムをみた方が高い相関が得られている。

 

次回は、ランニングエコノミーについて詳しく見ていこう。

 

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【Reference】

  1. Anderson T. (1996). Biomechanics and running economy. Sports Med. 22 76–89. 10.2165/00007256- 199622020-00003
  2. Avela J., Komi P. V. (1998). Reduced stretch reflex sensitivity and muscle stiffness after long-lasting stretch-shortening cycle exercise in humans. J. Appl. Physiol. Occup. Physiol. 78 403–410. 10.1007/s004210050438 
  3. Weltman A. (1995). The blood lactate response to exercise. Hum. Kinet. 18 81–97

【心不全の最新のトピック】心不全の新しい指標

心臓は、自律神経と密接に関係しており、健常の場合は交感神経と副交感神経が規則的にバランスをとっています。

しかし、心疾患や脳血管疾患などコンディションが障害されていると、多数の有害事象を生じることが報告されています。

例えば、副交感神経刺激が減ることで心機能低下と関連があることも明らかとなっていたり、またアドレナリンの活動は、死亡率と大きく関係しています。

このように心臓と自律神経及びカテコラミンの関係は密接に絡んでいます。

 

そんな中近年これらの自律神経・カテコラミンに加えて新たな心機能の指標となる神経伝達物質が明らかとなりました。

ニューロペプチドYという神経伝達物質です。

 

心大血管疾患領域で大きな注目を集めたのは、2019年にオックスフォード大学のneilらの研究です。

NeilらはニューロペプチドYの上昇と心筋梗塞の予後が大きく関連していることを明らかにしたのです。

これを機にニューロペプチドYという神経伝達物質と心機能との関連が進められるようになりました。

 

ニューロペプチドYとは?

ニューロペプチドYは心臓の神経接合部から、カテコラミンなどと一緒に放出されます。

 

ニューロペプチドY(NPY)という神経伝達物質は、1980年代に豚の脳から抽出された内因性生理活性ペプチドで、36個のアミノ酸より構成されていることが明らかにされました。

ニューロペプチドYは哺乳類の脳や末梢交感神経末端に広く分布し、心臓においては冠動脈周囲の交感神経末端に多く存在し、循環動態に重要な働きを果たしています。

そんな中、Neurocardiology Research CenterのOlujimaらは、心筋梗塞だけでなく、心不全患者の予後にもニューロペプチドYが関係しているのではないかと疑問を呈しました。

 

カテコラミンの増加が、心不全と関連があることはこれまでに報告されていましたが、ニューロペプチドYとの関連はこれまで明らかとなっておりませんでした。

 

今回は、ニューロペプチドYと心不全の関係について考えていきましょう。

 

ニューロペプチドYと心不全

健常者のニューロペプチドYは約4.5±2.5pg/dLと言われております。

Olujimaらが、心不全患者(HFrEF)105人を対象にニューロペプチドYを調べた結果、健常者と比較して顕著に上昇していることがわかりました。

 

中でもニューロペプチドYの値を 130pgを基準に比較してみると、≧130pg/mL以上の患者は、<130pg/mLの患者よりも約9.5倍死亡率が上がることを示したのです。

 

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ニューロペプチドYの作用とは?

これまでに

・血管収縮作用

・副交感神経の活動を抑制

・心筋カルシウムの活動増加

がニューロペプチドY作用として報告されており、微小血管の機能障害や心筋障害で上昇することがneilらによって示されております。

 

ではこのニューロペプチドYは何が原因で上昇するのでしょうか?

 

現在、不明な点が多く、明確な答えは得られていませんが、

基礎研究にて、心筋梗塞を発症した豚の星状神経節のニューロペプチドY免疫反応が増加することが明らかとなっております。

 

今回、ニューロペプチドYの値を≧130pg/mL(予後不良群)と<130pg/mL(予後良好群)で患者背景を比べたところ、糖尿病、高血圧、腎機能障害、6分間歩行テストがニューロペプチドY≧130pg/mL(予後不良群)有意に関連することがわかりました。

 

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また、ニューロペプチドYの放出はアドレナリン作動とも関連していると言われております。130pg/mLを超えると重度のアドレナリン過剰分泌を来している状態であると考えられます。

 

ニューロペプチドYが高い=心機能が悪いなのか??

 

これまでニューロペプチドYの上昇が心不全や心筋梗塞と関連を認めることが示されました。しかし、必ずしも、心機能が悪い=ニューロペプチドYが高値というわけではないようです。

 

拡張能が低下すると、ニューロペプチドYは低下することが分かったのです。

確かに、Olujimaらは収縮能が低い心不全(HFrEF)を対象としておりました。

 

つまり、拡張能が低下する心不全(HFpEF)の場合はニューロペプチドYが過小評価されてしまう可能性があるため、心機能の予後として使えないと可能性が上げられました。

また、ニューロペプチドYがNYHA分類とは関連しないことも明らかとなりました。

 

これらのことから、ニューロペプチドYの値の解釈には気を付けなければならないことがわかりました。

 

まとめ

ニューロペプチドYという神経伝達物質は心筋梗塞や心不全などの心疾患の生命予後を予測する指標になると考えます。

 

今回の研究で分かったこと。

・ニューロペプチドYは腎機能、6分間歩行テストと関連がある。

・ニューロペプチドYは死亡率、心不全再入院率の増加に関連がある。

 

私自身、理学療法士として今回注目するのが、6分間歩行テストとニューロペプチドY

に関連があるということです。

 

もしかすると今後、ニューロペプチドYを減らして長生きするために運動耐用能を上げよう!という考え方が生まれてくるかもしれませんね。

 

 

Reference

 

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  9.  Olujimi A. Ajijola, MD, PhD; Neal A . Coronary Sinus Neuropeptide Y Levels and Adverse Outcomes in Patients With Stable Chronic Heart Failure. JAMA Cardiol. 2020;5(3):318-325. doi:10.1001/jamacardio.2019.471 

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HFrEFとHFpEFで最大酸素摂取量の改善の仕方が違う? 最大酸素摂取量が向上するメカニズムとは?

世界では2000万人以上が心不全と診断されており、昨今の高齢化に伴い心不全患者は増加の一途をたどっております。

そして心不全による死亡率は高く、世界で早急に対策を立てていかなければならない課題と言えます。

 

心不全は大きく2種類に分けることができ、心不全患者のおよそ50%は左室駆出率が減少したHFrEFという状態。残りの50%は、左室駆出率の低下しないHFpEFという状態と言われています。

 

HFrEFは収縮不全を生じている状態です。

 

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左室の心筋の収縮が弱く、(あるいは弁による弊害)大動脈に血液を送ることができない状態です。

 

HFpEFは拡張不全を生じている状態です。

 

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左室駆出率は健常人と同等なので、大動脈に血液を送る力は強いにも関わらず、左心室に血液が入ってこないがために、結果的に大動脈に血液が送りにくくなっている状態です。

 

慢性的な心不全は運動耐用能の低下を認め、酸素摂取量も減少していると報告されています。

特に、心不全患者は健常者と比較してpeakVO2は35%低下するとの報告も上がっております。

 

実際に心不全患者さんに機械を用いて血管内のモニタリングを行うと、中枢(酸素運搬能力)から末梢(骨格筋血流速度、ミトコンドリア機能)らの減少が明らかとなりました。

 

つまり、酸素摂取量が低下した患者さんは、日常生活を送るだけでも最大努力を必要とし、結果的に不活動、あるいは廃用症候群に至ってしまうケースが多いのです。

 

 ここでWesley らはある疑問を呈しました。

「同じ心不全と言っても、HFrEFと、HFpEFでは心機能が違う。なのになぜ、どちらも運動を行うと酸素摂取量が向上するのだろうか?」

 

この問いに答えるため、Wedleyらはメタアナリシスを作成し、rEF,pEFの違いによってこれらの酸素摂取量の改善の仕方に違いがあるか明らかにしようと試みたのです。

 

HFrEFの心機能の変化

HFrEFはかつて大きな論争がくり広がっていました。

運動療法で左室の機能が向上する!と報告するものから、左室機能は変わらないと報告するものまで様々でした。

 

そんな論争は、Haykowskyらの、メタアナリシスによって1つの答えを導いたのです。

有酸素運動を行った群で左室駆出率(LVEF)が2.6%増加し、拡張期左室容積(EDV), 11.5mlが減少、収縮期左室容積(ESV)が12.9ml減少するという左室機能が向上することを、

Haykowskyらが明らかにしたのです。

 

このことから、臨床的に安定したHFrEFにおける有酸素運動は心臓のリモデリングを行い、拡大した心臓を細くすることができることが示されたのです。

 

 また、HFrEFに対する高負荷インターバルトレーニングの報告も見られました。

高負荷インターバルトレーニングを4-6ヶ月実施したことでpeak VO2が23%改善し、

動静脈酸素格差、下肢血流速度、1回心拍出量も実施前に比べて有意に改善を認めました。

しかし、有酸素運動では減少を認めた拡張期左室容積(EDV)や、収縮期左室容積(ESV)には改善を認めませんでした。

 

HFpEFの心機能の変化

HFpEFについても、ある論争が起こっておりました。

fuzimotoらは、pEFにおいて1年間の高強度のインターバルトレーニングを行った結果、左室コンプライアンスの改善は認めないと報告しています。

 

一方で、

Haykowskyらは、HFpEFの患者の16週間の運動療法フォローを行った結果、動静脈酸素格差と最大酸素摂取量は改善するものの、心機能は改善しないことを明らかにしたのです。

 

また同様にHFpEF に12週間の高負荷インターバルトレーニングをおこなった研究でも同様の結果となりました。

 

HFrEFの血管機能

HFrEFに対して有酸素運動最大酸素摂取量の60-70%の負荷量での運動療法を行ったで結果,心大血管機能の改善を認めたとの報告が上がっています。

血管機能の中でも特に変化を示したのが、アセチルコリン(ACh)です。

 

Linkeらの研究では短期間(4W~)の有酸素運動だけでアセチルコリンが2.5倍増加したことを報告しており、十分に橈骨動脈の血管拡張能力が改善したことを明らかにしました。

 

同様にBelardinelli らも、長期間(2〜6ヶ月)で有酸素運動をした結果、上腕・橈骨動脈の血管拡張反応120%改善したとの報告も明らかとなっています。

 

 高負荷インターバールトレーニングvs有酸素運動 血管機能の変化

両様式でも最大酸素摂取量と血管拡張機能の改善を認めたが、高負荷インターバールトレーニングの方が、血管拡張機能の改善の程度は大きかったと報告されています。

 

これらのことから、血管拡張機能が最大酸素摂取量の改善と関連があることが示唆されました。

しかし、なぜ血管拡張機能が向上すれば、最大酸素摂取量の向上に寄与するのでしょうか?

  

この疑問にいくつかの考察があげられました。

Sullivanらは、血管機能の改善によって骨格筋の収縮時に酸素を速やかに運搬できるようになった結果、ミトコンドリア内に酸素を多く取り込めるようになったことで最大酸素摂取量が増加したのではないかと思われました。

 

さらにHambrechtらは長期の介入研究にて、4-6ヶ月の介入で、骨格筋の血管抵抗性が低下し、骨格筋血流量,酸素運搬能力、最大酸素摂取量、動静脈酸素格差が増加したことを報告しています。

また、赤血球に結びついた酸素が筋肉内のミトコンドリアに輸送される能力についても実施前よりも39%改善することが報告されている。

 

これらのことから、血管機能が改善することは、あらゆる面で良い効果を及ぼすことが示唆されました。

HFpEFの血管機能

まだHFpEFの血管機能を報告した論文数は少なく、不明な点は多いです。

しかし、Angadiらの報告だと、4週間の高負荷インターバルトレーニングを実施しても、HFpEF患者は血管拡張機能が改善しないことを報告しており、未だ、pEFの血管機能についての研究が今後の課題と言えます。

HFrEFの骨格筋機能

6ヶ月にわたって、HFrEFに対して有酸素運動を実施することで、骨格筋内のミトコンドリアの増加、シトクロムCの密度の増加が認められた。

シトクロムCの増加は最大酸素摂取量の増加と強い関連があるとされます。(r=0.87 p<0.001)

 

さらに筋肉の線維が(typeⅡからⅠへ移行)、そして筋線維の毛細血管密度も増加すると言われている。またtyniらの別の研究では、運動療法によって、クエン酸回路での代謝が45→58%まで増加することが明らかとなったのです。

 

HFpEFの骨格筋機能 

これまでHFpEFに対して、骨格筋機能についての報告は少ないです。

しかし中には、動静脈酸素格差の増大(筋肉でたくさん酸素を取り込める)や外側広筋の酸素取り込み量が増加するとの報告が挙げられています。最近では12週間の高負荷インターバルトレーニングもpeak VO2 を改善したとの報告が上がっています。

 

筆者の見解ですが、HFpEFに対して有酸素運動・高負荷インターバルトレーニングを行っても心機能が改善することは明らかになっておりません。にも関わらず、最大酸素摂取量が増加するということは、動静脈酸素格差の増大が、大きな割合を占めているのかもしれません。

 

まとめ

有酸素運動時のHFrEFとHFpEFの反応

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高負荷インターバルトレーニング時のHFrEFとHFpEFの反応
 

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Reference

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わかりやすい酸素摂取量のド基礎②

酸素摂取量は酸素をどれだけ血液の中に取り込めるかを示した量です。

つまり酸素摂取量が多い人ほど体力があるということです。

 

また、酸素摂取量の増加は、心疾患患者の生命予後を上げると報告されています。

 

酸素摂取量はFickの方程式というもので表せます。

 

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酸素摂取量は1回心拍出量・心拍数・動静脈酸素格差の積で規定されます。

 

つまりこのどれかが長けていれば、酸素摂取量が高くなるということを意味します。

 前回は、1回心拍出量について考察していきました。

www.rehabiliknock.com

 

 

今回は第二弾、酸素摂取量における心拍数について考えていきましょう!

 

 

心拍数は速いほど良いの?


計算上の話ですが、心拍数を極限まで上げることができれば、酸素摂取量をさらに上げることができると思いませんか?そうだとすると、酸素摂取量はかなり高いところまで上げることができます。

 

しかし、人間の身体はそんなに簡単な仕組みではないのです。健常者であれば、心拍数がたくさん上がっても、1回心拍出量はそこまで低下することはないのですが、心不全患者の場合は違います。

 

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心不全患者の場合、心拍数が上昇すると1回心拍出量が低下し、結果的に酸素摂取量は低下してしまうのです。

 

1回心拍出量が低下する地点は無酸素性代謝閾値(AT)と近似していると言われています。

 

運動療法を実施することで酸素摂取量の増加を認められていますが、その要因は1回拍出量の増加と動静脈酸素格差の拡大によるもので、心拍数が増加しやすくなるという報告は、ほとんど上がっておりません。

 

それどころか、心不全患者の場合はまた、その他にも1回拍出量をさげてしまう場合があります。

 

心拍数は上がりすぎても下がりすぎても、酸素摂取量が下がってしまう非常にデリケートなものなのです。

 

簡単に例をあげたので確認していきましょう。

 

心拍数が上がりすぎて酸素摂取量が下がるタイプ

 

 不整脈

 頻脈性心房細動

  左心室に血液が溜まっていない状態で何度も心臓が収縮すると、空打ちしてしまうため1回心拍出量は低下します。

 

その上頻脈性心房細動は冠血流量が40%低下すると言われています。冠血流量が低下すると、心臓の栄養供給が低下します。その結果、心臓の収縮力が低下するため1回心拍出量も低下するのです。

 

さらに頻脈性心房細動と左室駆出率(L V E F)が組み合わさると1回心拍出量は30%ほど低下すると報告されています。

 

上室性頻拍

 

先ほどの頻脈性心房細動と比較すると、上室性頻拍の1回心拍出量は低下しにくいものですが、それでも冠血流量は35%低下すると言われています。

 

 心拍数が下がりすぎて酸素摂取量が下がるタイプ

洞不全症候群

 

洞結節の線維化等によって安静時・運動時ともに心拍数が上昇しにくくなる症候群です。

その結果、運動しても酸素摂取量を上げられなくなり、日常生活程度の活動で呼吸困難を呈してしまうのです。

 

βブロッカー

現在使用される主なβブロッカーはカルベジロール(α,β blocker)とビソプロロール(β1 blocker)のを使用すると、心拍数を下げる効果があります。Nemotoらの報告では、ビソプロロール(β1 blocker)を使用した方がカルベジロール(α,β blocker)よりも心拍数を下げやすいとの報告も上がっています。

 

その他の薬剤

抗コリン薬のアトロピンや、ジルチアゼムと言った徐脈作用の強い薬剤も心拍数を下げる効果があります。しかし、実際に投与されるのは、心拍数が上がりすぎて酸素摂取量が下がるタイプの不整脈などを抑える目的に使われます。

 

 このように心大血管疾患の患者さんは心拍数をコントロールする薬が入っていることが多いです。ただ体力がないんだなと思わずに、その体力が減っている原因が何なのかを考えることが非常に重要です。

 

今回は、酸素摂取量における心拍数について簡単に紹介しました。

次回は動静脈酸素格差について考えていきましょう。

 

Reference

1 Nemoto.S : Effects of αβ-Blocker Versus β1-Blocker Treatment on Heart Rate Response During Incremental Cardiopulmonary Exercise in Japanese Male Patients with Subacute Myocardial Infarction.Int J Environ Res Public Health.2019