真咲輝司 Rehabiri knock

大学病院で勤務する理学療法士

わかりやすい酸素摂取量のド基礎編①

フルマラソンのトップアスリート選手と一般市民ランナーが同じ3km/hの速度で5kmのジョギングをしたとします。走り終わった後、どちらがより疲れているでしょうか?

 

おそらく、一般市民ランナーでしょう。川内選手くらいのトップ選手なら話は別ですが。

 

このとき、トップアスリート選手の方が一般市民ランナーよりも体力があると言えますね。

しかし、この皆さんが普段使う「体力」って一体なんのことでしょうか?

 

 

今回は、心臓リハビリテーションを行う上で必要な酸素摂取量についてド基礎について考えていきましょう。

 

 

 酸素摂取量とは

結論から言いますと、「体力」のことを別の言い方で「酸素摂取量」と言います。

酸素摂取量は酸素をどれだけ血液の中に取り込めるかを示した量です。

つまり酸素摂取量が多い人ほど体力があるということです。

 

また、酸素摂取量の増加は、心疾患患者の生命予後を上げると報告されています。

 

酸素摂取量はFickの方程式というもので表せます。

 

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*筆者作成                                                                                                                      

酸素摂取量は1回心拍出量・心拍数・動静脈酸素格差の積で規定されます。

 

つまりこのどれかが長けていれば、酸素摂取量が高くなるということを意味します。

 

ではこの酸素摂取量の規定因子の3つについて、見ていきましょう。

 

1回心拍出量

1回心拍出量のことを(左室拡張期末期容量-左室収縮期末期容量)とも言ったりしますが、

簡単に言うと、一回の心拍で血液を心臓から身体中に送り出す力のことですね。しかし、心臓に基礎疾患を抱える患者さんは、この1回心拍出量が落ちる場合が多いです。

その多くは①左心室から血液を送り出せないタイプと②左心室に血液が入ってこないタイプの2つに分けられます。

 

①左心室から血液を送り出せないタイプ

①左心室から血液を送り出せないタイプは、心室の収縮不全(収縮能が低下)です。

血液が左心室から大動脈に送り出すことが制限されているのです。

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*筆者作成

一番の原因はなんと言っても、左室駆出率(LVEF)の低下によるものです。

LVEFの低下する原因は加齢・心筋虚血・心筋壊死・心筋変性等いくつかの理由が挙げられます。

次に、 

②左心室に血液が入ってこないタイプ

②左心室に血液が入ってこないタイプは、心室の拡張不全(拡張能が低下)です。

拡張能とは左心室に血液を吸い込む能力のことで、拡張不全が起こることで、

血液が左心房から左心室に流入することを制限するのです。

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*筆者作成  

これらによって、1回心拍出量が下がってしまうのです。

 

心不全の1回心拍出量

先ほどの収縮不全を呈する心不全患者は、A T(嫌気性代謝閾値)を境に左室駆出率、及び

1回心拍出量が低下します。

 

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少し難しくなりますが、1回心拍出量が下がってします原因を考えていきましょう。

運動に伴い、心臓に戻ってくる還流量が増大して前負荷(容量負荷)が高まります。

その結果、1回心拍出量も増えていくわけです。

これについては、フランク・スターリングの法則を考えるとわかりやすいです。

 

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心臓に戻ってくる還流量が増大していくと、ある程度は1回心拍出量も増えていくわけですが、ある地点を境に、心臓の許容範囲を超えてしまい、還流量が増大しても1回心拍出量が低下していくのです。(赤い線)

 

余談ですが・・・

スポーツ心臓について

先ほど述べてきたのは、1回心拍出量が低下するような心臓に基礎疾患のある方についてでした。

酸素摂取量が高いほど、早く走れると言うことですね。フルマラソンのトップアスリート選手ともなれば、器質的に1回心拍出量が増大するような変化が起こっていることをご存知でしょうか?

フルマラソンのトップアスリート選手の心臓をあえて言うとしたらこうです。

 

心臓がよく拡がり、よく縮む。「拡張型心筋症と肥大型心筋症の良いとこ取り」といった感じです。いわゆるこれがスポーツ心臓です。

 

メタアナリシスを用いた検討では、平均左室拡張終期径(心臓の拡がり)は53.2±0.99mmで非トレーニング者に比べて10%の増加、平均壁は10.3±0.48mmで18%の増加,左室の重量は198g±7.7gで48%の増加を認めました。

一般の方の1回心拍出量は「65-75mL」くらいと言われていますが、

フルマラソンのトップアスリート選手は「140-180mL」ほどまで上げられるそうです。

 

 

次回は、2つ目 心拍数について考えていきましょう。

 

高負荷インターバルトレーニングの安全性・有効性

心大血管疾患を有する患者さんに対して行う運動療法(以下:心臓リハ)を実施することで、運動耐用能の改善や、生活の質(以下QOL)の向上に寄与するとされています。またtarorらによると、1年間心臓リハを実施することで再入院率の低下、死亡率の低下にも寄与すると報告しております。

 

 

高負荷インターバルトレーニングについて

これまでの心臓リハは有酸素運動が中心です。無酸素性作業閾値(以下:AT)を超えないように自覚的にややきつい程度の軽めの運動負荷をかけていきます。

 

しかし、いまだにトレーニングの方法や、運動強度については明確なものはなく、まだまだ議論する必要があります。近年では、心不全患者に対してA Tを超えるような高負荷なインターバルトレーニングが有効との報告も上がっています。

 

しかし心不全を呈した患者さんにとって高負荷な運動を行うことは、カテコラミンの増大に伴い不整脈を誘発したり、1回心拍出量を低下させる等の有害事象も報告されています。

 

 先行研究では、高負荷な運動は心不全が代償化してから実施する1〜3ヶ月後に開始することを推奨する報告は上がっていますが(Wisløff U 2007)、入院早期から運動療法を実施することを推奨した報告はあまり上がっていません。

 

そこでこの疑問に答えるためにArtemらは、入院早期からの高負荷での運動療法についての効果を明らかにしようとしました。高負荷インターバルトレーニングの方法は以下の通りです。

 

高負荷インターバルトレーニング群は

3分のウォームアップ後、20秒間peal VO2 の50% →40秒間10Wでの休憩を繰り返す。

トレーニング時間は

10min組 peakVO2 <10ml/kg

15min組 peakVO2 10-14ml/kg

20min組 peakVO2 14ml/kg<

 

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その結果、心不全入院後早期(9.4日±3.7)から高負荷インターバルトレーニングを3週間実施することで運動耐用能を示すpeak VO2は17%増加することが示されたのです。

 

さらに高負荷インターバルトレーニング群において心不全患者のQOLを評価するミネソタ心不全質問表(以下:MLHFQ)でも有意にQOLが改善することが明らかとなったのです。

 

 

これらのことからArtemらは、心不全入院早期から高負荷インターバルトレーニングの実施が安全かつ運動耐用能の改善、Q O Lの改善に効果的であることを明らかにしました。

 

 

しかし、今回は、重度弁膜症、最近発症した心筋梗塞イベント、C R T植え込み等の並存疾患を有する患者さんについては研究から除外されており、比較的合併症の少ない患者さんが対象となっています。今後は、そのような重症の方についても高負荷インターバルトレーニングの有効性を明らかにしていく必要があります。

 

高負荷インターバルトレーニングで心機能が改善する?

 また近年では、高負荷インターバルトレーニングを実施することで心機能を改善するとの報告が上がっています。

 

Wisloffらは、12Weekの高負荷インターバルトレーニングの介入にて、

左室拡張終(末)期容積が12%減少し、左室収縮終(末)期容積15%減少し、左室駆出分画(率)LVEFは37%増加したとの極めて興味深い結果を示しました。同様にE Fが改善した結果が、他にも報告されています(Erbs S 2010)

 

今後はLVEFをはじめとした高強度インターバルトレーニングが心機能を改善させる要因についてもまとめていきたいと思います。

 

 

1 Artem D,Denis et al. Interval training early after heart failure decompensation is safe and improves exercisetolerance and quality of life in selected patients,European Sosiety of Cardiology 2018

2 Taylor RS, Sagar VA, Davies EJ, et al. Exercise-based rehabilitation for heart failure. Cochrane Database Syst Rev 2014; 4: CD003331.

3 Wisløff U, Støylen A, Loennechen JP, et al. Superior cardiovascular effect of aerobic interval training versus moderate continuous training in heart failure patients: A randomized study. Circulation 2007; 115: 3086–3094.

4 Meyer K, Schwaibold M, Westbrook S, et al. Effects of short-term exercise training and activity restriction on functional capacity in patients with severe chronic con- gestive heart failure. Am J Cardiol 1996; 78: 1017–1022.

5 Erbs S, Ho ̈ llriegel R, Linke A, et al. Exercise training in patients with advanced chronic heart failure (NYHA IIIb) promotes restoration of peripheral vasomotor func- tion, induction of endogenous regeneration, and improvement of left ventricular function. Circ Heart  Fail 2010; 3: 486–494.

6 Acanfora D, Scicchitano P, Casucci G, et al. Exercise training effects on elderly and middle-age patients with chronic heart failure after acute decompensation: A ran- domized, controlled trial. Int J Cardiol 2016; 225: 313–323.

7 Smart N, Haluska B, Jeffries L, et al. Exercise training in systolic and diastolic dysfunction: Effects on cardiac function, functional capacity, and quality of life. Am Heart J 2007; 153: 530–536.

筋肉量が低下すると死亡率が上がる? 心筋梗塞患者の最近のトピックス

 

Sarcopenia(サルコペニア)という疾患は1989年にRosenbergにより提唱された造語で“Sarco”は「筋肉」”penia”は「減少」を意味します。サルコペニアになると健常な方と比較し2〜5倍加齢に伴う筋力量の低下が起こると報告されています。そして筋力低下はその後の身体機能低下にも影響を及ぼすとされているのです。

Sarcopeniaは骨格筋の機能を歩行スピードや握力で評価を行います。そしてこの歩行スピードは、心大血管疾患の予後と強く関係することが近年明らかになったのです。

 

 

 

「歩行速度の低下は心大血管疾患イベントの増加と関連がある。」

しかし、なぜ歩行速度と心大血管疾患イベントに関連があるかはこれまで明らかになっておりませんでした。そこでSatoらは心筋梗塞後の患者を対象に四肢の骨格筋量と退院後の予後について調査することにしたのです。

※DXAは正確性、安全性、費用面において優れており、現在ゴールデンスタンダードとなっています。

 

Satoらは心筋梗塞で入院した387人を対象に四肢骨格筋量を算出しました。

四肢骨格筋量(A S M I)の評価方法にはDXA(dual-energy X-ray absorptiometry)という装置を使用しました。その結果から四肢骨格筋質量(A S M I)の低い群と高い群に分けました。四肢骨格筋質量(A S M I) が男性≤ 6.64 kg/m2 、女性≤ 5.06 kg/m2 を低ASMI群、それ異常を高ASMI群としています。

 

 

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 筆者編集 

 

その結果、四肢骨格筋量の低い患者は四肢骨格筋量の高い患者に比べて有意に将来起こるイベントが増えることが明らかとなりました。そしてこの結果の着目すべき点は、

患者背景を調整しているということです。

調整したものは以下の通り(年齢,性別,高脂血しょう,糖尿病,心筋梗塞,ヘモグロビン値,腎機能,心筋梗塞重症度,Killip分類,LVEF,冠動脈の動脈硬化,BMI,体脂肪量)

 ※調整とは上記の影響を除外するために行う統計手法です。

このことから心筋梗塞患者において骨格筋量は予後予測として重要な指標となることがわかりました。 

 

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 退院後のイベント全体で比較すると低四肢骨格筋量は高四肢骨格筋量に比べて2.06倍イベントが起こりやすいという結果となりました。

歩行速度の低下は心大血管疾患イベントの増加と関連があると報告されてきました。しかしながら骨格筋量については明らかになっておりませんでした。それをSatoらが明らかにしたのです。

肥満パラドックス

これまで、肥満は心大血管疾患の最も大きなリスク因子と言われてきました。しかし近年は肥満の方が予後が良いと言われています。これが肥満パラドックスと言われているものですね。しかし今回の筆者らの特記すべきポイントは、B M Iを調節した上で(A S M Iの低い群と高い群でのB M Iの差がないと考えた上で)も低いASMIの方が有意に予後不良となっている点です。

たとえ肥満パラドックスといえども、筋肉量の減少は危険なのです。

肥満パラドックスというワードを聞いて、「いっぱい太った方が体にいいんだ!」とお菓子ばかり食べているという勘違いはしないでくださいね!

肥満パラドックスというのは、B M Iが高くかつ、筋肉もしっかりあるようなお相撲さんのような身体が理想なのかと思います。

骨格筋の低下と動脈硬化

次に最近のでは、Ochiらによって大腿筋量の低下と動脈硬化の進行に関係があるということが明らかとなっています29

実際にSatoらのデータでも骨格筋量が少ない群の方が冠動脈疾患が多く,動脈硬化が進んでいる可能性が示唆されました。

まとめ

骨格筋量の低下は重要な予後予後予測になる

 

 

 

【References】

1)Ryosuke Sato,Eiichi Akiyama: Decreased Appendicular Skeletal Muscle Mass is Associated with Poor Outcomes after ST-Segment Elevation Myocardial Infarction: J Atheroscler Thromb, 2020

2)Kohara K, Okada Y, Ochi M, Ohara M, Nagai T, Tabara Y and Igase M: Muscle mass decline, arterial stiffness, white matter hyperintensity, and cognitive impairment: Japan Shimanami Health Promoting Program study. J Cachexia Sarcopenia Muscle, 2017; 8: 557-566

3) Leong DP, Teo KK, Rangarajan S, Lopez-Jaramillo P, Ave- zum A, Orlandini A, Seron P, Ahmed SH, Rosengren A, Kelishadi R, Rahman O, Swaminathan S, Iqbal R, Gupta R, Lear SA, Oguz A, Yusoff K, Zatonska K, Chifamba J, Igumbor E, Mohan V, Anjana RM, Gu H, Li W and Yusuf S: Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. The Lancet, 2015; 386: 266-273

4) Kamiya K, Hamazaki N, Matsue Y, Mezzani A, Corra U, Matsuzawa R, Nozaki K, Tanaka S, Maekawa E, Noda C, Yamaoka-Tojo M, Matsunaga A, Masuda T and Ako J: Gait speed has comparable prognostic capability to six- minute walk distance in older patients with cardiovascular disease. Eur J Prev Cardiol, 2018; 25: 212-219

手術侵襲度と術前フレイルが術後死亡率に及ぼす影響

 

 はじめに

手術による侵襲度が高いと術後の合併症を伴う可能性は上がり、有病率・死亡率共に増加すると言われております。

 

また手術を受ける患者自身の身体機能もまた、有病率・死亡率に影響するとこれまでの先行研究にて報告されてきました。

特にフレイルを有する場合は比較的軽い処置でも機能予後や生命予後にも悪影響を及ぼすことが報告されております。

 

そこで今回は手術侵襲度と術前フレイルが術後死亡率に及ぼす影響について最新の知見を紹介します。

 

フレイルの定義

加齢の伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態

フレイルを診断する評価バッテリーは多くありますが、中でも身体機能の低下を評価したものだとRisk Analysis Index(RAI)というバッテリーが世界共通と言われております。

 

フレイルとは適切な介入により再び健康な状態に戻る可塑的な状態とも言われておりますが、手術侵襲のストレスによる身体機能の低下を加速させて、身体機能の非代償化、あるいは死亡するリスクすらあるのです。

 

フレイル患者と手術 

現在のところフレイルと術後合併症との影響については先行研究が少なく、小規模のデータしかないのが現状です。

これまでの外科医たちは、フレイルの患者が侵襲度の低い手術に耐えるだけの予備力があるのかどうかを考慮してこなかったという背景がある。

しかしながらこのような低リスクの手術でさえ、フレイルにとって悪い結果となるのであれば、例え侵襲度の低い手術でさえも実施せずに保存的加療をした方が良いという選択となる場合もある。

その場合に外科医は出来る限りフレイルのリスクを減らせるように術前から患者家族と相談し今後の方針を共有し決定していくことが重要となるのです。

 

そして手術を行うという決定となれば、できる限り身体機能の改善、予備能力を高められるようにリハビリテーションの追加や栄養療法の介入を行うことで術後の予後が変わる可能性もあります。

 

 

そこでMyrickらはフレイルの重症度と手術侵襲度との関係性を明らかにすることしました。

 

フレイルの重症度と手術侵襲度との関係

Myrickらはまず手術ごとの侵襲度を群分けしOSSという指標を作成しました。

これらの手術が行われた術後から30日、90日、180日の死亡率との関係を明らかにすることとしたのです。

 

フレイルの重症度を表す指標:Risk Analysis Index(RAI)

手術侵襲度を表す指標:Operative stress score(O S S)

(RAI)

14項目からなり、0から81点のスコア。点数が高いほどフレイルの重症度が高いことを示す。R A Iは術後死亡率を予測するための評価として高い予測力をを備えたツールと言われています。

(O S S)

外科術で得られた結果からカテゴリをO S Sで分けた。

O S S1:非常に低いストレス

O S S2:低いストレス

O S S3:中等度ストレス

O S S4:高いストレス

O S S5:非常に高いストレス

 

対象は432828人で92.8%が男性(401453),平均年齢は(61.0±12.9)
平均RAIscoreは(21.25)。

R A Iスコアをフレイルの重症度ごとに群分け。

アウトカムは30 90 180日の死亡率。

統計はCOX 比例ハザード比を使用。

 

結果

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手術侵襲度とフレイルの重症度


  

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Figure 1より

フレイルではないRA I<20の非フレイル患者は手術侵襲度の増加に伴い死亡率は増加する傾向を示しましたが、フレイル患者は全てのタイプを通して死亡率が高いことがわかりました。

 

例えば、O S S1の比較的軽度の侵襲でも、一般的な死亡率と比較してフレイル(RAI 30-39)では死亡率が1.55倍,重度フレイル(R A I>40)では10.34倍まで増加するのです。

 

また手術侵襲度の低い(OSS1-3)を受けたフレイル患者の死亡率は、手術侵襲度の高い(OSS5)を受けた 非フレイル患者よりも死亡率を上回りました。

 

 

手術侵襲度の低い手術でも死亡率は高い

 これまではOSS5に当てはまるような手術侵襲度の高いものであればハイリスクだと認識されてきましたがフレイルと呼ばれる方にとってはOSS1となる手術侵襲度の低いものもハイリスクだという認識も持つことが重要であると考えなければなりません。

実際に多くの患者が、手術を行うか、保存的加療を選択するべきか決められていない患者やそのご家族が多い状況です。なぜなら、生活の質(Q O L)というのは、生きることそのものだからです。

今後、フレイルの患者が手術を行う時はいずれの患者に対しても、議論を重ねる必要があるということです。

 

リハビリテーションが重要

そこで今後の展望としてリハビリテーションの術前介入が重要になってくるのです。

近年では、フレイル患者に運動療法を行った介入研究も見られております。

 

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フレイルと診断された85歳以上の施設入所者24名に対して運動療法を行うことで身体機能の改善を認めました。今後、フレイル患者が手術を選択することとなった場合は、リハビリテーションを介して、身体機能の改善を図ることができれば術後の有病率や死亡率を減らせるかもしれません。

今後の展望

運動療法、そして栄養介入を実施することで
身体機能を改善することが重要!

 

 

REFERENCES

 

1.Myrick C. Shinall Jr,Association of Preoperative Patient Frailty and Operative Stress With Postoperative Mortality.JAMA Surg.doi:10.1001/jamasurg.2019.4620.2019.11.13

2.RobinsonTN,WuDS,PointerL,DunnCL, Cleveland JC Jr, Moss M. Simple frailty score predicts postoperative complications across surgical specialties. Am J Surg. 2013;206(4):544-550. doi:1016/j.amjsurg.2013.03.012

3.LinHS,WattsJN,PeelNM,HubbardRE.Frailty and post-operative outcomes in older surgical patients: a systematic review. BMC Geriatr. 2016;16 (1):157. doi:1186/s12877-016-0329-8

4.RobinsonTN,WallaceJI,WuDS,etal. Accumulated frailty characteristics predict postoperative discharge institutionalization in the geriatric patient. J Am Coll Surg. 2011;213(1):37-42. doi:1016/j.jamcollsurg.2011.01.056

5.Cadore EL et al.:Multicomponent exercises including muscle power training enhance muscle mass, power output, and functional outcomes in institutionalized frail nonagenarians. Age(Dordr).;36(2):773-85.2014

食事を摂取するタイミングを変えるだけでダイエットに成功する。

 

 

 

 

・空腹になる時間タイミングをコントロールする上でClock gene(概日リズム)*体内時計が重要な役割を持っている。

 

 

普段と違う時間に食事をするとサーカディアンリズムが崩れる。

 

人間には1日の時間感覚を司る中枢が存在します。

この中枢は視交叉上核(SCN)に存在すると言われております。この中枢が機能する事で人は時間の感覚を養っているのです。これを一般的にサーカディアンリズムと言います。

 

しかし、近年この時間感覚を司っているのは視交叉上核(SCN)以外にも存在するということがわかりました。その場所は、心臓・肝臓・膵臓などの臓器です。視交叉上核を中枢の体内時計というならば、これらの臓器は末梢の体内時計と言うところでしょうか。

 

これらの末梢の体内時計と深く関わりがあるとされるのが食事のタイミングなのです。

私たちは普段1日3食摂ります。身体の中では、食事を摂取した時間からも1日の時間感覚を養っているのです。

 

しかし、この食事の摂取するタイミングが変わるということは、1日の時間感覚を狂わせてしまうことにつながるのです。

特にこの時間感覚を狂わせてしまう事で身体にどのような変化が生じるかという研究が数多く、世に出ております。2018年3月出版のjornal Metabolismではサーカディアンリズムを崩すような行動・習慣(例えば、不適切な食事・睡眠、そしてテレビや室内灯などの明かりにさらされている時間)は新陳代謝を悪くするという報告があります。

 

その結果【肥満になりやすい】ということが言われております。

 

 ・食事の時間を変えるだけで、ダイエットに成功する

J.B. Wangらは食事の摂取量のタイミングの違いについて報告しています。

 

1日に必要なカロリーの33%以上を朝食に摂る群と、夕食に摂る群で比較した際に、夕食に33%以上のカロリーを摂取する群の方が,体重が2倍以上増加したとの報告したのです。

 

1日のうち朝食の食べ方が最も重要ということがわかります。

 

Jornal Obesityでも,肥満女性に1日1400kcalまでの食事制限を12週間続けるという介入研究が行われました。A群の食事の内訳は(朝700kcal 昼500kcal 夜200kcal)でB群は反対(朝200kcal 昼500kcal 夜700kcal)です。

結果はA群のほうがB群に比べて2.5倍も体重が減少し、腹囲周径も減少することがわかりました。

1日に摂取したカロリーは同じなのに、時間を変えるだけでダイエットに効果はまるで変わるのです。さらにA群の方が空腹時のインスリン分泌量の減少を認めました。

これに対してStantonらは1つの見解を出しました。

朝食の摂取量が少ない日は、摂取量の多い日に比べて1日の総摂取量が多くなる。

ではなぜ摂取量のタイミングが変わるだけで、体重の増減に影響を及ぼすのでしょうか。その疑問にGooleyらが1つの答えを出しました。

 

・食事の時間で脂肪組織の蓄え方が変わる。

Gooleyらの研究によると、体内時計が崩れる事で、脂肪の代謝にも影響を及ぼすことが報告されております。食事のタイミングをずらすだけで、血液中の脂質(約100種類)ほどに影響を及ぼしたとのことです。

これらの血液中の脂質の変化によって今後将来的に、食事のタイミングと肥満を及ぼす原因解明につながるかもしれません。

 

 

まとめ

1日の食事するタイミングを変えないことや、朝食の摂取量を増やすことでダイエットに成功する確率は上がる可能性があります

 

参考研究

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

酸塩基平衡の問題をいち早く察知! 〜血液ガスに見方〜 (2)

前回に引き続き、血液データの見方について考えていきましょう。

www.rehabiliknock.com

 

 

STEP5 アニオンギャップ(AG)を計算する。

ここでようやくAGの計算です。 もちろん人によっては、最初にAGを出した方がわかりやすいじゃないか!と思う方もいると思いますが、STEP1~4を先にしておくことで代償作用がしっかりと働いているのかなどがわかりやすいと思うのです。

 

AG== [Na+] -([Cl-]+[HCO3-])

正常値を当てはめると、140-104-24=12となります。

 

AGをしておかないと重大な病変に気づくことができません。

なぜAGを重要視するのか・・?

 

人の体は電気的に中性を保ちます。それは陽イオンの数と陰イオンの数が等しいということです。

つまりAGを算出することで体の中の生体ゴミを見つけることができます。

AGの主な酸は乳酸、リン酸、ケト酸、酢酸といったものが代表ですね。

これが、酸塩基平衡障害のカギとなる代謝性アシドーシスの本体です。

 

AGが増加して生じる代謝性アシドーシス

①腎不全→BUNやCre値の上昇によって鑑別できます

②糖尿病性ケトアシドーシス→糖の利用障害により脂質利用がβ酸化を引き起こします。

③乳酸アシドーシス→嫌気的解糖系により乳酸が過剰生産されます。

 

これらはHCO3-の漏出により起こります。

2大原因としては、

・腸液(アルカリ性)としての漏出 (下痢など)

・尿細管での再吸収障害 (腎疾患など)

 

しかし中には、AGが正常値にも関わらず、代謝性アシドーシスとなる病態もあります。

CL値が高くなるとAGが正常値に見えてしまうのです。つまり高CL血しょうです。

 

 

 

 

STEP6  病態は代謝性か呼吸性か

・代謝性因子のHCO3-は正常値の24mEq/Lから何%逸脱しているか?

・呼吸性因子のPCO2は正常値の40mmHgから何%逸脱しているか?  を計算します。

計算値を比較して、大きい方が酸塩基平衡障害の主病変です。

 

もちろんSTEP3・4を念頭に置きながらです。

 

STEP7  H+ 算出し、pH値に一致するのか確かめよう!

Hendersonの式:H+ =24×PCO2/HCO3-

 

正常値を入れるとH+ 24×40/24=40となります。

ちなみにpH7.40の時にHが40となります。覚えやすいですね!

H+ は酸ですから、増えるとpHは下がります。

pH=7.30のとき H=50

pH=7.40のとき H=40

pH=7.50のとき H=30

となりますので、実際のpHと比較した時に、合致しない場合は、呼吸障害やその他の隠れた病変がある可能性大です。

 

以上が一通りの酸塩基平衡の見方です。

これを瞬時に計算できるように練習してください。

病態がわかると、患者様の状態を把握することができ、急変しても迅速な対応ができます。そればかりか、理解することは、私たちの日々の仕事がさらに楽しくなります。

 

Reference

1)Fagan TJ:Estimation of hydrogen ion concertration. N Engl J Med,288:915,1973

2)今井裕一:”Na-CL”からわかることはなんですか?『輸液ができる好きになる』,羊土社,2010

酸塩基平衡の問題をいち早く察知! 〜血液ガスに見方〜

 

アニオンギャップ(AG)というものをご存知でしょうか?

アニオンギャップ       = [Na+] -([Cl-]+[HCO3-])

で表すことで、主に代謝性アシドーシスを見出す簡便な計算式ですね。

しかし、この式だけでは、代謝性アシドーシスによる代償をしっかりと行えているのか、わかりません。

つまり、AGだけをやっただけで終わってしまうのは患者さんのデータを全然読めていないということです。

しかし、医療現場となれば、たくさんの患者様がいて、1人の患者様の血液データにゆっくり時間を割けない!ということが医療従事者にとっての実情ではないかと思います。

また、血液データの中にHCO3-を測定しない場合もあると思います。そうなるとAGすら読めなくなります。そんな方々に、少しでも迅速にそして正確に血液データを読む方法をお伝えします。

 

 

 

STEP1 血清NaからCLを引く!

正常値であればNa 140mEq/L  CL 104mEq/Lです。計算すると、Na-CLは36です。

なぜ最初にこの計算をするかというと,この計算をするだけで簡便にあることがわかるのです。

30以下→代謝性アシドーシス疑い(あるいは呼吸性アルカローシス)

40以上→代謝性アルカローシス疑い(あるいは呼吸性アシドーシス)

31~39→不確定

 

これまでCLの値を見ていない方が多いのではないのでしょうか?

CLの値にも注目することでいち早く異常に気づくことができます。

 

STEP 2 血清K(カリウム)値とpHの関係が適切か確認!

実は、血清KとpHは逆の関係をとります。

pHが7.4の時、血清Kは4mEq/Lです。まずこれを基準にしてください。

pHが0.1上がると血清はK0.5下がります。

つまり、pH7.2のアシデミアになると血清Kは5mEq/Lになるということです。

 

では、なぜ血清KとpHが逆の関係になるのでしょうか?

 

 

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例えば、何らかの影響で大量の血清Kが失われ、低K血しょうになったとします。

通常、細胞の中には、たくさんのKを含んでいるため、低K血しょうになると細胞内のKは細胞外へ移行します。すると電気的中性を維持するために、H+を細胞外から細胞内へ移行する働きが起こります。

H+は酸性ですから、血液内の酸が減ってしまうのです。

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STEP3 pH7.〇〇 の値とPCO2値を確認!

 

代謝性アシドーシスやアルカローシスの場合、どのような代償が働くでしょうか?

HCO3 16mEq/L pH7.22のような代謝性アシドーシスの場合、呼吸を促進し体内のPCO2を排出しようとします。その結果,PCO2も正常値40mmHgから22mmHg程度まで低下していきます。

 

仮に代謝性アシドーシスになっても、PCO2が40mmHgになっている場合、一見正常値のように見えて、その裏に呼吸機能障害を疑うことができるのです。つまり、呼吸性の代償がしっかりと働いているのかをすぐにわかるということです。

 

 

STEP4  AaDO2を求めよう!

AaDO2は肺胞酸素分圧(PAO2)− 動脈酸素分圧(PaO2)です。

肺胞酸素分圧(PAO2)の求め方は

=0.21×(760-47)-PCO2×呼吸商(0.8)

=150-50

=100mmHg

動脈酸素分圧は正常値だと90~100mmHgなので,

AaDO2は,0~10mmHgくらいになります。

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AaDO2値が高くなるほど、肺胞中の酸素血液中の酸素に差が生じているということです。Ⅰ型呼吸不全の場合は、肺胞の酸素が動脈血にうまく行き渡らない病態ですから、AaDO2は増加します。Ⅱ型の場合は、動脈血だけでなく肺胞にも酸素が行き渡っていない病態ですから、見かけ上、AaDO2は正常値に近い値となるので、合わせて覚えてください。

 

 

おまけ

ちなみに酸素投与中の肺胞酸素分圧(PAO2)を求める方法は、
FiO2(吸入気酸素濃度)×713- PCO2×呼吸商(0.8)です。

 

 

患者様のデータをいち早く分析できることは、リスク管理能力を身につけることと同じです。今日では、医者だけでなく、看護師、薬剤師、PT、OT、STも血液データを見てリスク管理できる力が必要です。 次回も、引き続き血液データの見方について考えていきましょう。

 

Reference

1)Fagan TJ:Estimation of hydrogen ion concertration. N Engl J Med,288:915,1973

2)今井裕一:”Na-CL”からわかることはなんですか?『輸液ができる好きになる』,羊土社,2010