わかりやすい酸素摂取量のド基礎編①
フルマラソンのトップアスリート選手と一般市民ランナーが同じ3km/hの速度で5kmのジョギングをしたとします。走り終わった後、どちらがより疲れているでしょうか?
おそらく、一般市民ランナーでしょう。川内選手くらいのトップ選手なら話は別ですが。
このとき、トップアスリート選手の方が一般市民ランナーよりも体力があると言えますね。
しかし、この皆さんが普段使う「体力」って一体なんのことでしょうか?
今回は、心臓リハビリテーションを行う上で必要な酸素摂取量についてド基礎について考えていきましょう。
酸素摂取量とは
結論から言いますと、「体力」のことを別の言い方で「酸素摂取量」と言います。
酸素摂取量は酸素をどれだけ血液の中に取り込めるかを示した量です。
つまり酸素摂取量が多い人ほど体力があるということです。
また、酸素摂取量の増加は、心疾患患者の生命予後を上げると報告されています。
酸素摂取量はFickの方程式というもので表せます。
*筆者作成
酸素摂取量は1回心拍出量・心拍数・動静脈酸素格差の積で規定されます。
つまりこのどれかが長けていれば、酸素摂取量が高くなるということを意味します。
ではこの酸素摂取量の規定因子の3つについて、見ていきましょう。
1回心拍出量
1回心拍出量のことを(左室拡張期末期容量-左室収縮期末期容量)とも言ったりしますが、
簡単に言うと、一回の心拍で血液を心臓から身体中に送り出す力のことですね。しかし、心臓に基礎疾患を抱える患者さんは、この1回心拍出量が落ちる場合が多いです。
その多くは①左心室から血液を送り出せないタイプと②左心室に血液が入ってこないタイプの2つに分けられます。
①左心室から血液を送り出せないタイプ
①左心室から血液を送り出せないタイプは、心室の収縮不全(収縮能が低下)です。
血液が左心室から大動脈に送り出すことが制限されているのです。
*筆者作成
一番の原因はなんと言っても、左室駆出率(LVEF)の低下によるものです。
LVEFの低下する原因は加齢・心筋虚血・心筋壊死・心筋変性等いくつかの理由が挙げられます。
次に、
②左心室に血液が入ってこないタイプ
②左心室に血液が入ってこないタイプは、心室の拡張不全(拡張能が低下)です。
拡張能とは左心室に血液を吸い込む能力のことで、拡張不全が起こることで、
血液が左心房から左心室に流入することを制限するのです。
*筆者作成
これらによって、1回心拍出量が下がってしまうのです。
心不全の1回心拍出量
先ほどの収縮不全を呈する心不全患者は、A T(嫌気性代謝閾値)を境に左室駆出率、及び
1回心拍出量が低下します。
少し難しくなりますが、1回心拍出量が下がってします原因を考えていきましょう。
運動に伴い、心臓に戻ってくる還流量が増大して前負荷(容量負荷)が高まります。
その結果、1回心拍出量も増えていくわけです。
これについては、フランク・スターリングの法則を考えるとわかりやすいです。
心臓に戻ってくる還流量が増大していくと、ある程度は1回心拍出量も増えていくわけですが、ある地点を境に、心臓の許容範囲を超えてしまい、還流量が増大しても1回心拍出量が低下していくのです。(赤い線)
余談ですが・・・
スポーツ心臓について
先ほど述べてきたのは、1回心拍出量が低下するような心臓に基礎疾患のある方についてでした。
酸素摂取量が高いほど、早く走れると言うことですね。フルマラソンのトップアスリート選手ともなれば、器質的に1回心拍出量が増大するような変化が起こっていることをご存知でしょうか?
フルマラソンのトップアスリート選手の心臓をあえて言うとしたらこうです。
心臓がよく拡がり、よく縮む。「拡張型心筋症と肥大型心筋症の良いとこ取り」といった感じです。いわゆるこれがスポーツ心臓です。
メタアナリシスを用いた検討では、平均左室拡張終期径(心臓の拡がり)は53.2±0.99mmで非トレーニング者に比べて10%の増加、平均壁は10.3±0.48mmで18%の増加,左室の重量は198g±7.7gで48%の増加を認めました。
一般の方の1回心拍出量は「65-75mL」くらいと言われていますが、
フルマラソンのトップアスリート選手は「140-180mL」ほどまで上げられるそうです。
次回は、2つ目 心拍数について考えていきましょう。