真咲輝司 Rehabiri knock

大学病院で勤務する理学療法士

筋肉量が低下すると死亡率が上がる? 心筋梗塞患者の最近のトピックス

 

Sarcopenia(サルコペニア)という疾患は1989年にRosenbergにより提唱された造語で“Sarco”は「筋肉」”penia”は「減少」を意味します。サルコペニアになると健常な方と比較し2〜5倍加齢に伴う筋力量の低下が起こると報告されています。そして筋力低下はその後の身体機能低下にも影響を及ぼすとされているのです。

Sarcopeniaは骨格筋の機能を歩行スピードや握力で評価を行います。そしてこの歩行スピードは、心大血管疾患の予後と強く関係することが近年明らかになったのです。

 

 

 

「歩行速度の低下は心大血管疾患イベントの増加と関連がある。」

しかし、なぜ歩行速度と心大血管疾患イベントに関連があるかはこれまで明らかになっておりませんでした。そこでSatoらは心筋梗塞後の患者を対象に四肢の骨格筋量と退院後の予後について調査することにしたのです。

※DXAは正確性、安全性、費用面において優れており、現在ゴールデンスタンダードとなっています。

 

Satoらは心筋梗塞で入院した387人を対象に四肢骨格筋量を算出しました。

四肢骨格筋量(A S M I)の評価方法にはDXA(dual-energy X-ray absorptiometry)という装置を使用しました。その結果から四肢骨格筋質量(A S M I)の低い群と高い群に分けました。四肢骨格筋質量(A S M I) が男性≤ 6.64 kg/m2 、女性≤ 5.06 kg/m2 を低ASMI群、それ異常を高ASMI群としています。

 

 

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 筆者編集 

 

その結果、四肢骨格筋量の低い患者は四肢骨格筋量の高い患者に比べて有意に将来起こるイベントが増えることが明らかとなりました。そしてこの結果の着目すべき点は、

患者背景を調整しているということです。

調整したものは以下の通り(年齢,性別,高脂血しょう,糖尿病,心筋梗塞,ヘモグロビン値,腎機能,心筋梗塞重症度,Killip分類,LVEF,冠動脈の動脈硬化,BMI,体脂肪量)

 ※調整とは上記の影響を除外するために行う統計手法です。

このことから心筋梗塞患者において骨格筋量は予後予測として重要な指標となることがわかりました。 

 

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 退院後のイベント全体で比較すると低四肢骨格筋量は高四肢骨格筋量に比べて2.06倍イベントが起こりやすいという結果となりました。

歩行速度の低下は心大血管疾患イベントの増加と関連があると報告されてきました。しかしながら骨格筋量については明らかになっておりませんでした。それをSatoらが明らかにしたのです。

肥満パラドックス

これまで、肥満は心大血管疾患の最も大きなリスク因子と言われてきました。しかし近年は肥満の方が予後が良いと言われています。これが肥満パラドックスと言われているものですね。しかし今回の筆者らの特記すべきポイントは、B M Iを調節した上で(A S M Iの低い群と高い群でのB M Iの差がないと考えた上で)も低いASMIの方が有意に予後不良となっている点です。

たとえ肥満パラドックスといえども、筋肉量の減少は危険なのです。

肥満パラドックスというワードを聞いて、「いっぱい太った方が体にいいんだ!」とお菓子ばかり食べているという勘違いはしないでくださいね!

肥満パラドックスというのは、B M Iが高くかつ、筋肉もしっかりあるようなお相撲さんのような身体が理想なのかと思います。

骨格筋の低下と動脈硬化

次に最近のでは、Ochiらによって大腿筋量の低下と動脈硬化の進行に関係があるということが明らかとなっています29

実際にSatoらのデータでも骨格筋量が少ない群の方が冠動脈疾患が多く,動脈硬化が進んでいる可能性が示唆されました。

まとめ

骨格筋量の低下は重要な予後予後予測になる

 

 

 

【References】

1)Ryosuke Sato,Eiichi Akiyama: Decreased Appendicular Skeletal Muscle Mass is Associated with Poor Outcomes after ST-Segment Elevation Myocardial Infarction: J Atheroscler Thromb, 2020

2)Kohara K, Okada Y, Ochi M, Ohara M, Nagai T, Tabara Y and Igase M: Muscle mass decline, arterial stiffness, white matter hyperintensity, and cognitive impairment: Japan Shimanami Health Promoting Program study. J Cachexia Sarcopenia Muscle, 2017; 8: 557-566

3) Leong DP, Teo KK, Rangarajan S, Lopez-Jaramillo P, Ave- zum A, Orlandini A, Seron P, Ahmed SH, Rosengren A, Kelishadi R, Rahman O, Swaminathan S, Iqbal R, Gupta R, Lear SA, Oguz A, Yusoff K, Zatonska K, Chifamba J, Igumbor E, Mohan V, Anjana RM, Gu H, Li W and Yusuf S: Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. The Lancet, 2015; 386: 266-273

4) Kamiya K, Hamazaki N, Matsue Y, Mezzani A, Corra U, Matsuzawa R, Nozaki K, Tanaka S, Maekawa E, Noda C, Yamaoka-Tojo M, Matsunaga A, Masuda T and Ako J: Gait speed has comparable prognostic capability to six- minute walk distance in older patients with cardiovascular disease. Eur J Prev Cardiol, 2018; 25: 212-219